恋は甘くない。(黄) (ページ9)

今日:145 hit、昨日:125 hit、合計:113,595 hit

9 ページ9

ご馳走様でしたぁ！

と、気持ちのいい声が厨房にも聞こえてきた。

そしてきっとメンバーひとりひとりだろう、美味しかったです、とか、ありがとうございます、とか、それぞれのお礼の声も聞こえてくる。

…この言葉が嬉しくて。これからの自分の励みになる。

片付けをしていると、ホールスタッフから、優希とわたしが呼ばれた。

何事かと思えば、デザートが美味しかったから挨拶をしたいとのことで…。

わたしは先程打ち合わせで顔を合わせたから、と断ったものの、優希に腕を掴まれほぼ無理やり彼らの前に連れて行かれる。

それぞれが、美味しかったです、とか、今後のケーキの出来上がりが楽しみです、とか、色々話をしたけれど。

わたしは右から左に言葉が流れていって。

…なんせ、とある人からの視線が痛くて。

打ち合わせの時もだけど、なんでそんなじっと見る？ってくらいに、見られている。

そしてその彼がわたしの目の前に来て。

ス、と手を差し出してくる。

思わず顔を見上げれば、悲しそうな顔をしていて。

…なんであなたが、悲しい顔をするの？

泣きたいのは、こっちだよ。ばか。

これから企画よろしくお願いします、と言い、握手を求めてきたのだろうけど。

一瞬、たじろいでしまって。

すると、優希がスっとわたしの前に立ち、代わりに彼と握手をして。

優希「よろしくお願いします。すいません、彼女少し人見知りで」

多分、庇ってくれたのだろう。優希の後ろ姿が、なんだか大きく見えて。

ぺこ、とお互いにお辞儀をし、厨房に戻ろうと歩き始めた時。

Aちゃん！と名前を呼ばれ。

後ろを振り向くと、深澤くんがいて。

なんだろう？と思っていると、落としたよ、と言いながら、わたしの手に何かを渡す。

「あ、ありがとう」

落とすような物なんて持ってたっけ。と思いながらお礼を言うと、にこ、と笑い、そのままメンバーのみんなの元へ戻っていく深澤くん。

その時一瞬、彼(・)と目が合ったけれど。

すぐに目を逸らし、足早に厨房に戻った。