恋は甘くない。(黄) (ページ25)

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変に緊張してしまっているわたしを和ませようとしてくれたのか、彼がマイクを取って。

…懐かしい、思い出の曲。

彼がデビューする前、わたしが彼の先輩の曲が好きで。それを言ったら、ヤキモチを妬いたとかなんとかで、その歌を必死に練習してくれたっけ。

…歌う彼を横目に、歌詞の流れるモニターを見て。彼と2人きりの、密室。もう二度とこんなこと、出来ないって思ってた。

そう思っていたら、自然と、彼の服の裾を掴んでいて。それに気づいたのか、歌が止まる。

岩「…どうした？」

メロディだけが流れ続けて。

顔を上げれば、すぐ近くに、彼の顔。

少し不安げで、でも優しい表情をしていて。

…きらい。…だいきら、い…

「…照、」

その名前を呼んだら、もう、戻れなくなるってわかってた。…だからずっと、名前を呼ぶのを躊躇していた。…けれど。

岩「…やっと名前、呼んでくれた」

最初は驚いた表情をしたけれど、すぐににこっと微笑んでくれて。

わたしの頬を、そっと撫でる。

こんなに近くに、大好きだった人が、いるんだもん。

それは過去の気持ちでも、なんでもなくて。

少し見つめあってから、段々と照の顔が、近づいてきて。

あと数センチで、唇と唇が触れ…そうになった瞬間。

スマホの着信音が鳴り響いた。