4.ぽつぽつ ページ8
雨の多くなってきた季節。
『傘、なくなってる……』
委員会が長引いていつもより帰るのが遅くなり、雲のせいであたりは少し薄暗くなっていた。
体育館で部活動に打ち込む生徒もまばらになっていて、部室の明かりが1つ1つ消え始める。
天気予報を確認して持ってきたビニール傘はどこにもなかった。きっと誰かが間違えて持っていったのだろう。
『……仕方ないか』
少し覚悟を決めて雨の中に身を投じたものの、このままでは全身ずぶ濡れだ。
(途中雨宿りできそうな場所……あったかな)
ちょっとくらいはマシになれば、と思い頭の上に乗せた両手で雨を遮りながら小走りしていると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて足を止める。
「A?」
これは、あの人の声だ。
『あれ……夜久さん!今帰りですか?』
赤いジャージに、音駒の文字。傘をさして立っていたのは夜久さんだ。
「おう、部活終わったとこなんだ。Aも?……てか、傘ないじゃん!濡れるよ」
おいで、と傘を持ち上げながら手招きする夜久さんに軽く会釈をして、傘に入れてもらった。
いつもは制服姿だから、ジャージ姿の夜久さんは新鮮だ。
『委員会で遅くなっちゃって。部活、お疲れ様です』
「はは、Aもお疲れ。傘ないなら送ろうか?」
『え?でも……』
でも、迷惑かけちゃうし……
そう口に出そうした、その時。
「Aさーん!」
『え、わっ』
走るたび上がる水飛沫をものともせず、走ってきた勢いのまま私と夜久さんの間に潜り込んできたのは_____
「ちょ、おいリエーフ!!お前傘持ってんなら自分の使え!」
「いいじゃないですかー!夜久さんの傘大きいし!」
辺りを見てみると、他のバレー部の面々もぞろぞろと帰路についている。
かがんでも傘の天井に頭が当たる灰羽くんを夜久さんは小突きながら、傘を高く持ち直した。
「あれ、Aさん傘ないんですか?」
ようやく落ち着いた様子で話を続ける灰羽くんは、こちらを向いて首を傾げた。
いつもは顔がもっと上にあるのに……こんなに近い距離、同じくらいの高さで目を合わせるのは初めてで。
『うん、誰かが間違えて持って行っちゃったみたい』
「そうなんですか……あ、なら!」
する、と抜け出した灰羽くんは自分の傘を広げたかと思えば私の手を取って夜久さんの傘から引き抜き、こう続ける。
「オレと相合い傘しましょうよ」
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えま - はい!読みます!! (4月6日 18時) (レス) @page33 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - えまさん» コメント嬉しいです…!ありがとうございます☺️ (4月6日 11時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月6日 9時) (レス) @page32 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - いもりさん» 素人の文にそう言って頂けて嬉しいです…!こちらこそありがとうございました🙏 (4月5日 22時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
いもり - 完結おめでとうございます!!とってもドキドキしました(`・ω・´)こんないい作品書いて下さりありがとうございました! (4月5日 17時) (レス) @page32 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボルシチ | 作成日時:2024年3月22日 12時