. ページ24
『好きな人がいて』
そう話し始めた表情は俺じゃない遠くの誰かを見ている。
『その人に好きって、言ってもらえたのに……私の気持ち、一回誤魔化しちゃったんです』
自分から話を聞くなんて言っておいて、誰かを想って吐露するAを見て心臓が痛くなる。
(こうなるのは、わかってただろ)
『こんなの初めてだから喋るのも緊張して、早く伝えたいって思ってるのに……なんて言えばいいか、わからなくて』
『そしたら、その人は、無理に答えなくていいって……そのあと、彼が話しかけてくれなくなったから、こわくなって……』
『私がぐずぐずしてたから……面倒だって、思われてたらどうしよう……』
『伝えるの、こわいです』
話すうちにAの目から涙が溢れ始める。静かに肩を揺らして、必死に涙を堪えている。
こんなに近くで、ずっと前からAを想っていても、彼女は別の……あいつのことで泣いている。
『ごめんなさい……関係ないのに』
関係、なくない。
俺だって、Aが好きだから。
今ここで、気持ちを伝えて。俺があいつからAを奪えたら。
俺の腕で抱きしめて、一生離さないのに。
「……謝る必要ないって。俺が聞きたかったんだから……ほら」
いつも滅多に弱音を吐かない彼女が、俺だけに見せた涙をタオルで拭う。
素直に顔をこちらに向けてくれるAが、たまらなく愛おしいけど。
「汗拭いたやつで悪い。一応綺麗なとこ、たぶん」
今、俺がそれを伝えるのは、きっと違う。
「そいつは……リエーフは、お前のこと面倒だなんて思ったりしてない」
『……え、え？名前……なんで……？』
「まぁ、なんとなく。……さっきも、お前が体育館出てからあいつ、全く集中できてなかったし、レシーブもいつもの何割マシでへなちょこだ」
Aに、この気持ちは伝えられない。
伝えれば俺は楽になるけど、Aはきっとまた誰にも話さず考え込んで。
そんなのは、嫌なんだ。
「無理すんなっつったのは、お前のことを想ってのことだと思うんだ」
ちくりと傷んだ心は、絶対に表にださない。
「リエーフはちゃんと、Aのこと好きだ」
「大丈夫。きっと、まだ待ってるよ」
Aに向けて作った笑顔でちゃんと、安心させられただろうか。
「怖い思うけど、ちゃんと伝えてこい」
空模様は、まだ暗いままだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 79人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えま - はい！読みます！！ (4月6日 18時) (
レス) @page33 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - えまさん» コメント嬉しいです…！ありがとうございます☺️ (4月6日 11時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月6日 9時) (レス) @page32 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - いもりさん» 素人の文にそう言って頂けて嬉しいです…！こちらこそありがとうございました🙏 (4月5日 22時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
いもり - 完結おめでとうございます！！とってもドキドキしました(｀･ω･´)こんないい作品書いて下さりありがとうございました！ (4月5日 17時) (レス) @page32 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ボルシチ | 作成日時：2024年3月22日 12時
