7.じわじわ ページ17
「まだ悩んでるの」
隣の席の孤爪くんがそう話しかけてきたのは、次の日の休み時間。
「……そんなに考える必要ないと思う」
『え?』
「Aは、やりたいって思ってるんでしょ」
内心を言い当てられ驚いて振り向くと、孤爪くんの猫目と目が合う。
やっぱり、孤爪くんは見ていないようでちゃんと見ているらしい。
確かに、私は部活を覗きに行ってからバレー部にとても興味を惹かれている。
今まで触れてこなかった世界を見て、もっと近くで、と思ってしまったんだ。
「やりたいなら、やっていいんじゃないかな……ただの部活だし」
そう言って彼はまた下を向いてしまう。
(ただの、部活……)
突き放すような言い方、でも妙に納得してしまって。
『私……やる』
そう言葉にすると孤爪くんはニコ、と笑った。
(また人に気を使わせちゃったな)
黒尾さんにそのことを伝えると別に驚く様子もなく迎えてくれた。あとで聞いてみれば「絶対バレーを好きになると思ったから」らしい。
見透かされていたみたいで少し悔しいけど、こうして私はバレー部のマネージャーになった。
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やると決まれば時間が過ぎるのは早く、仕事を覚えたりテストに追われたりしているとあっという間に2日間の合宿が始まった。
体育館には他の強豪校も集まっており、あちこちでボールが跳ねて試合中の声掛けが飛び交っている。
蒸し暑い体育館の中、立っているだけでもじわじわと汗が滲んでくるのに、その中何度も試合をしている彼らはさすが運動部という感じだ。
タオルやドリンクを渡しながらコート脇で試合を眺め、1日目は終了した。
『合宿ってすごいんだね』
「ですね、強い奴がいっぱいで面白いし!」
廊下の窓を開けて夜風にあたる灰羽くんはシャワーを浴びたばかりのようで、まだ乾き切っていない頭にタオルをかけている。
『早く乾かさないと風邪ひいちゃうよ』
「それ前にも言ってましたよね」
にへら、と笑う彼はいつもの彼なのに、髪が濡れているせいか少し落ち着いた雰囲気だ。
上体を窓のフチに預けた彼は「Aさん乾かしてください」と、甘えるように目を瞑る。
『もう……灰羽くんも結構甘えん坊さんだよね』
保健室での意地悪な彼に仕返しするように言って見せたのに、
「一緒ですね、Aさんと」
と笑って返され、赤くなる頬を隠すためタオルでわしゃわしゃと彼の視界を塞いだ。
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えま - はい!読みます!! (4月6日 18時) (レス) @page33 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - えまさん» コメント嬉しいです…!ありがとうございます☺️ (4月6日 11時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月6日 9時) (レス) @page32 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - いもりさん» 素人の文にそう言って頂けて嬉しいです…!こちらこそありがとうございました🙏 (4月5日 22時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
いもり - 完結おめでとうございます!!とってもドキドキしました(`・ω・´)こんないい作品書いて下さりありがとうございました! (4月5日 17時) (レス) @page32 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボルシチ | 作成日時:2024年3月22日 12時