6.ぐるぐる ページ13
あれから数日間体調の悪い日が続き、それもすっかり良くなった日のこと。
「おはよ、Aちゃん」
『あれ?黒尾さん、おはようございます。どうしたんですか?』
珍しく朝から2年生の教室にいる黒尾さんと、ゲームをしているけれどなんとなく迷惑そうな顔の孤爪くん。
「ちょーっと話あってさ。今ヒマでしょ」
そう言いながら私の椅子を引いてくれる黒尾さんは、なんだか怪しいセールスマンみたいだ。
『ヒマですけど……話って、なんですか?』
おそるおそる椅子に座ると、黒尾さんはニヤリと笑ってある提案を持ちかけてきた。
「Aちゃんさ、バレー部のマネージャーやってくんない?」
『…………はい?』
「べつに今すぐ返事しろとは言わないけど。ま、考えといてよ」
いい返事期待してるよ、と一方的に話して教室を出て行った黒尾さんに戸惑いながらも、孤爪くんに話しかける。
『え、あれ、どういう……?』
「そのまんまの意味。マネージャー、やって欲しいんだって」
『それはわかるけど、今さらなんで……』
「……知らない」
相変わらず孤爪くんは画面に目を落としたままだ。
確かに部活には入ってないけれど、音駒のバレー部といえば強豪、大変な仕事に決まっている。
(私なんかに務まるの……?)
ぐるぐると考えこむうちに始業のベルは鳴り、それは授業中先生に当てられるまでずっと続いていた。
_______________
Aが来なくなって久しい昼休み。
「……は!?お前何考えてんだよ!」
「いた方が助かるだろ、マネージャー」
教室に俺の声が響き渡った。
今日の朝黒尾がなにやらニヤニヤしているから変だとは思っていたけど、いきなり飛び込んだニュースに飲んでいたジュースをこぼしかけた。
「だからってAにマネージャー頼むとか……」
「夜久だって嬉しいよな」
「うっせぇ」
「距離縮めるチャンスじゃねぇか」
「頼んでねぇ!」
マネージャーなんてただでさえ大変な仕事なのに、週末や夏休みには他校との合宿もひかえてる。
今からじゃかなりの苦労をかけるに違いない。
「俺は、反対だ」
「んなもん知らないね。あとはAちゃんの自由だからな」
勝ち誇った顔で言う黒尾に、返す言葉はため息となって消えた。
(もし、もしもAがマネージャーになるつもりなら……)
ぐっと握り込んだ拳はズボンのポケットの中に押し込む。
蝉の鳴き声が、やけにうるさかった。
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えま - はい!読みます!! (4月6日 18時) (レス) @page33 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - えまさん» コメント嬉しいです…!ありがとうございます☺️ (4月6日 11時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月6日 9時) (レス) @page32 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - いもりさん» 素人の文にそう言って頂けて嬉しいです…!こちらこそありがとうございました🙏 (4月5日 22時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
いもり - 完結おめでとうございます!!とってもドキドキしました(`・ω・´)こんないい作品書いて下さりありがとうございました! (4月5日 17時) (レス) @page32 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボルシチ | 作成日時:2024年3月22日 12時