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「先生呼んでくるんで横になっててくださいね」
そう灰羽くんに肩をゆっくり押されれば、体は素直に倒れてしまった。
誰も使っていなかったマットレスがじんわり、体温を受け止める。
ちょっと慣れない様子だけど、灰羽くんはそっと布団をかけてくれた。
こんなに優しい目の彼は初めてだ。
自分の心拍数が上がっているのがわかる。
「よし!」と呟いてカーテンを閉めようとする彼に、こう思った。
(行ってほしくない……)
今は熱が高いから、よけいに人肌恋しくなっていたのかもしれない。
気づけば私は彼の制服の裾を掴んでいて、
目を丸くしている彼に、こう投げかけた。
『いかないで……ほしい』
年下の彼にわがままを言っているこの状況。
顔を見ることができなくて布団に顔を隠した。
(言わなきゃ良かった……)
布団の外で、彼はどんな顔をしているのかな。
私のために行ってくれようとしていたのに。
(絶対引かれたし……)
長すぎる沈黙を布団の中で耐えていた。
すると……
キィィ…と音が鳴り、布団から目だけを覗かせて様子を伺うと近くにあった椅子を引き寄せた灰羽くんが、ベッド横でこちらをみていた。
「Aさん、結構甘えん坊なんですね」
ニィッと意地悪な顔で目を細めて笑う灰羽くん。
そのまま腰かけて、裾から離れた私の手をそっと握ってくれた。
表情とは違って優しく触れる大きな手。
「ここにいますから、安心して休んでください」
外の光が灰羽くんに遮られて私に影を落としている。
_____しとしと。
外は雨で、静かな雨音が室内に響く。
私の目にかかった前髪を長い指がそっと払って、そのまま頬へと流れる。
(くすぐったい……)
朦朧とする意識の中頬にあたる灰羽くんの手のひらの温度が心地いい。
灰羽くんの存在をうっすら感じながら、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
_______________
先生を呼ばなきゃいけない。
わかってるけど、オレの手をぎゅっと握ったまま眠っているAさんから目を離すのが、この時間を終わらせるのがいやで動けないでいる。
(オレを頼ってくれたのが嬉しい)
いつもはきっと後輩としてしか見られていないから。
こんなに無防備に横たわっていられるのは、オレのことを信頼してくれているからなのか。
_____オレは先輩のこと、どう思ってる?
(好き、なのかな)
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えま - はい!読みます!! (4月6日 18時) (レス) @page33 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - えまさん» コメント嬉しいです…!ありがとうございます☺️ (4月6日 11時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月6日 9時) (レス) @page32 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - いもりさん» 素人の文にそう言って頂けて嬉しいです…!こちらこそありがとうございました🙏 (4月5日 22時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
いもり - 完結おめでとうございます!!とってもドキドキしました(`・ω・´)こんないい作品書いて下さりありがとうございました! (4月5日 17時) (レス) @page32 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボルシチ | 作成日時:2024年3月22日 12時