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「おわっ!?」
案の定だ。
猫は急に伸びてきた大きな手のひらに驚き彼を引っ掻いたあげく、木の幹を伝い地面へ着地する。
救出成功……というより、あの猫は私たちがいなくても木から降りられたようだ。
あっけに取られる彼をよそに、猫の背中は彼方へと消えてしまった。
「そんなぁ……」
とほほ、と項垂れても彼は私より大きい。
猫の消えた方へ目線をやり任務完了とばかりに汗を拭う仕草をする彼の手には、きっと引っ掻かれた時にできたのだろう。小さな傷ができていた。血も出ている。
(大変だ)
私は鞄からハンカチを取り出し、彼に差し出す。
『絆創膏なくてごめんね。これで血、押さえて』
私に言われてやっと気づいたのか、彼は傷のついた手を背中に隠した。
「あぁ、こんな傷すぐ治りますよ」
『血で制服汚れちゃったらいけないから。それにばい菌とか……』
もし感染症なんかにかかってしまったら大変だ。
きまりが悪い様子だった彼もこちらの気持ちを察してか、なんとか受け取ってくれた。
「……じゃあ、ありがたく使わせてもらいますね。ちゃんと洗って返しますから!」
彼の屈託のない笑顔に、少し安心する。
きっとクラスでも人気者だったり。
なんて想像をしながら腕時計に目をやると、針は始業の5分前を指している。
『あ、遅刻』
「えー!?ヤバいじゃないですか!!」
あわあわ、と2人して鞄を手に取る。
少しだけ名残惜しいけど、遅刻はしたくない。
「先輩も音駒っスよね!走りましょう!!」
『え、ちょっと!』
瞬間、彼が手を取り、走り出す。
(……はやい!)
ただでさえ足の長さが違うと言うのに、彼は全力で走り出す。
手を取られていなければ今頃あの猫と同じように、彼の背中はすぐ見えなくなっていただろう。
せめて転けないように足を動かす中で、彼に目をやる。
_____きらきら。
風を切って進む彼の、光を透かした髪の毛がきらめく。
(名前、聞いてないや)
今までにないほどのスピードで走り途切れる息と、あまり回らない頭でそれだけを思った。
「ふぅ……間に合った〜!じゃあオレ、教室こっちなんで……また今度!」
私が息を整える前に、彼は廊下を駆けていく。
「灰羽、廊下を走るな!」
先生の叫び声が聞こえる。
(怒られてる……私も行かなきゃ)
彼のきらきらが、しばらく脳に焼き付いて離れなかった。
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えま - はい!読みます!! (4月6日 18時) (レス) @page33 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - えまさん» コメント嬉しいです…!ありがとうございます☺️ (4月6日 11時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月6日 9時) (レス) @page32 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - いもりさん» 素人の文にそう言って頂けて嬉しいです…!こちらこそありがとうございました🙏 (4月5日 22時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
いもり - 完結おめでとうございます!!とってもドキドキしました(`・ω・´)こんないい作品書いて下さりありがとうございました! (4月5日 17時) (レス) @page32 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボルシチ | 作成日時:2024年3月22日 12時