1.きらきら ページ1
上を見上げて幾分が経過しただろう。
見上げた先。桜の木にはまだ可愛らしい花弁が残っている。
不安げに揺れる、銀色のしっほ。
高い木から降りられなくなった野良猫。
まるく逆だった毛で感情を表している。
『こっちにおいで、怖くないよ』
決して長くない手を伸ばしぎこちない笑みを浮かべるも、手は届かないしより警戒されてしまった。
昔から動物に懐かれにくくはあったのだ、心を開いてもらうことはきっと無理だろう。
『どうしよう…』
ここは学校近くの通学路だというのに、あと少しで予鈴がなる時刻だからなのかもう他の生徒の姿は見当たらない。
自分ももうそろそろ行かなければ。2年の新学期早々遅刻なんてしたくない。
この猫には気の毒だけど、きっと誰か優しい人が降ろしてくれるはずだ。
後ろ髪を引かれる思いで鞄を手に取ろうとした、その時だった。
木の上の猫と同じ
_____銀色の毛並み。
こちらの様子を伺う緑色の瞳と、目が合う。
(同じ学校の制服……)
吊り目の男の子、名前はわからない。
きっと入学したばかりの新入生だ。
木の上を見上げて独り言を呟いている女なんて、さぞ不審に映っただろう。
気まずさにサッと目を逸らす。
人付き合いは得意な方じゃない、なんて言い訳をして。
このままなにもなかったかのようにこの場を立ち去りたい、去りたかった、のに。
「なんか、困りごとスか?」
吊り目の彼はあろうことか、こちらへ近づいてきている。
躊躇いもなく、ただ好奇心だけが働いた野良猫のように。
距離が近づいて、今度は彼の背丈に驚く。
(こんな大きい子いたんだ…)
目測でも180、いや190cmは超えていそうだ。
(ハーフとかなのかも)
圧倒される私に気がついたのか。
「あぁ、えっとすんません!困った顔してたから……」
少し屈んでくれた彼の、銀色をした綺麗な毛並みが陽の光を受けてきらきらと輝く。
少しだけ胸がざわついて。
『ううん、大丈夫。えと、猫……木の上の。降りられないっぽくて』
「なるほど、それなら任せてください!」
指を指すと理解できたのか、彼は意気揚々と手に持っていた鞄を無造作に放り出し木の上へ手を伸ばした。
『あ……まって!』
(そんなに急に触ろうとしたら……!)
……制止するのが遅かった。
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えま - はい!読みます!! (4月6日 18時) (レス) @page33 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - えまさん» コメント嬉しいです…!ありがとうございます☺️ (4月6日 11時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
えま - 完結おめでとうございます!とっても面白かったです!! (4月6日 9時) (レス) @page32 id: c3dc1b262f (このIDを非表示/違反報告)
ボルシチ(プロフ) - いもりさん» 素人の文にそう言って頂けて嬉しいです…!こちらこそありがとうございました🙏 (4月5日 22時) (レス) id: f90a9b58f4 (このIDを非表示/違反報告)
いもり - 完結おめでとうございます!!とってもドキドキしました(`・ω・´)こんないい作品書いて下さりありがとうございました! (4月5日 17時) (レス) @page32 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボルシチ | 作成日時:2024年3月22日 12時