会いたくて会いたくない人 ページ2
いずくくんがお店に来た。
……何もアルバイト初日に来なくても。
なんて、少し思ってしまう。
わたしの、会いたくて、会いたくない人。
「先輩にはいつもお世話になってますから！」
「ﾋｯｸ…ッ、うへぇ…もうのめないって…」
いずくくんは、よほどわたしと2人きりで話したかったようで、一緒に来ていた男の人を言葉巧みに煽ってベロベロに酔わせてた。
そんなに酔わせて大丈夫なのかと聞くと、
"ここのお店って出来高制だよね？ならAちゃんにとってもメリットしかないし、大丈夫だよ"
と、笑顔で言った。
「それよりも、ねぇ、Aちゃん」
『……な、に？』
「久しぶりだね」
『……うん』
「この仕事、慣れてないの？」
『え…っ？』
「不慣れな感じがしたから」
いずくくんは鋭い。
だから、ちょっと怖い。
わたしが蓋をしたすべてを見抜かれそうで…。
昔から、ちょっとだけ、怖かった。
だけど、心のどこかで、見抜いて欲しくもあった。
そんな期待をさせてくるところも、ちょっと怖かった。
わたしは弱くてジメジメしてて、やることなすこと全部上手くいかない、ウジ虫な自分が大嫌い。
『……今日が、はじめてだったから…。』
「そうだったんだ。」
『……、』
「僕、話したいことたくさんあるんだ」
『……うん』
わたしもある。
話したいこと、聞きたいこと、いっぱいある。
「それに、Aちゃんとまた会えて嬉しいよ、すごく」
わたしも、嬉しい。
すごく、すごく、ものすごく
でも、会いたくなかった。
わたしといずくくんは会っちゃダメだから。
いずくくんが何かしたとか、そういうんじゃない。
わたしが、わたしが悪いの。
「Aちゃん、」
でも、いずくくんに名前を呼ばれるたびに嬉しくなる
もっと、呼んで欲しくなる。
だけど、
"出久と関わらないでほしい"
いずくくんのお母さんに言われた言葉。
仕方がないと受け入れた言葉。
だから、雄英を辞めた。
だから、いずくくんと関わることのないようにヴィランとも関わらず、ヒーローとも関わらず、ひっそりと生きてきた。
だから、これ以上、話したくない。
だって、わたし、いずくくんのこと、ずっと大好きだったもの。
蓋をしたのに、溢れちゃう…。
『…い、ず…っ』
「今日はもう帰るよ！」
わたしが早いか、いずくくんが早いか。
「また来るね」
いずくくんが、わたしの耳元でそっと囁いた。
『…、ぅん』
うっかり、応えてしまった。
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作者名：どやちゃん | 作成日時：2024年2月11日 21時
