今年のプレゼント【志麻】/loss ページ6
鼻に抜ける声と滴り落ちそうな雫が、口を離すと静かに糸を引いた。ふ、と微笑まれて、また口を重ねると最後に舌をぢゅっと吸われる。
「あ、ぅ」
追い打ちをかけるように舌を吸われて、酸欠で頭がふらふらする。ぼーっとする思考で、相手を見上げてもただ志麻くんは意地悪な笑みを浮かべるだけだった。
「なぁA。今年のプレゼントも気に入ってくれた?」
そう言い、片手に握るネックレスをぷらんと下げて私によく見せてくる。最も、手に握っている状態からすでに見えていたのだが。
しかしそれでも志麻くんは、私の目の前にネックレスを掲げてくる。それは私の誕生石が中央に埋め込まれており、留め具には、志麻とローマ字であしらわれている。
それをにこにこ顏でぶら下げて、「ねぇA、仕事辞めん?」と言われた私はどう返していいか分からない。ただそれが、毎年のことなのは知っていた。
というのも毎年この頃志麻くんは私が仕事から帰ってくると、ぎゅうぎゅうに抱きしめて、ただいまのキスをせがむ。フレンチからディープなものへと変わっていくのは何度交えても慣れないが、私の背中に回す腕が熱いのはもう慣れてしまった。
「......ん、A、A、A。クリスマスの日まで仕事なんて、俺いやや。せやからお願いA。仕事辞めて」
別に約束なんかをしている訳でもないけど、ぐりぐりと私の鎖骨に頭を擦りつけて、弱々しく言う志麻くんがこの台詞を吐く日は必ず決まってクリスマスだ。もうこのやりとりも、今年で四年目になる。もちろん私も、恋人の願いは叶えたいと思っているのだが、いかんせんブラックな会社な為、無論元旦前日まで仕事なのだ。それを志麻くんは嫌々と首を振りながらも、毎年大人しく待っていてくれている。
それがクリスマスの時には、最強に酷い。プレゼントが卓上に横一列にずらりと並べられ、志麻くんに選べ、と言われる。その中には、服だったり靴だったりするのだが、一個だけ仕事を辞めるとかなんとか書かれた紙がプレゼントと一緒に入っている。
それを選んだら最悪だが、選ばないと後でもっと酷いことになるので選ぶしか私には方法がなかった。
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