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そうやってクリスマス・イヴになると、あの公園で成瀬お兄さんに会い、預けられたものを返してはまた預かる、という変な関係が続いた。
最初に出会ったクリスマス・イヴではマフラーを。
2度目に会ったクリスマス・イヴでは手袋を。
3度目に会ったクリスマス・イヴでは耳あてを。
4度目に会ったクリスマス・イヴではニット帽を。
そして今日、5度目のクリスマス・イヴになる。私は高校を卒業し、大学生になった。
会う度にこうして生きる理由を与えてくれるお兄さん__いや、成瀬さんにもびっくりだ。
まあ、私にとっては好都合なのだが。
今の私の生きる理由は、『成瀬さんに会うため』に変化していた。
彼が、好きなのだ。
どうしようもなく好きで、クリスマス・イヴ以外でも会いたくて、もっと色んな彼を知りたくて、好きが溢れて止まらない。
毎年変わらない大通りを歩き何度も通った道を進めば、あっという間に公園についた。
「誰かと思ったら…私服姿のAちゃんだ。久しぶり。すげぇ可愛いじゃん」
1年前とほぼ変わらず、彼はそこにいてくれた。
「好きだなぁ…」
なんて、小声でぽつりと呟いてみた。
*
「時間経つの早いな…もうこんな時間じゃん」
毎年のようにお喋りしながらお菓子を食べて、時間いっぱい楽しんでいたら、成瀬さんはそう言った。
また1年間会えないこの気持ちはやはり何度体験しても慣れないもので、胸がきゅうっと締め付けられる。
今年は何だろうかと考えながら俯いた。
「ねぇ、Aちゃん。今回はさ、これじゃだめ?」
そう言う彼の手元にはスマホがあり、LINEのQRコードが表示されていた。
「えっ、あのっ、これ、」
クリスマス・イヴ以外でも、会ってくれるということだろうか。自分の中で期待が膨らみ、顔が熱くなる。
「一年に一回しか会えないって寂しいから。もっとAちゃんに会いたいし、知りたいし、あ〜…つまり、ですね」
「年上彼氏は、嫌ですか?」
彼の口からそう告げられ、また涙が零れた。
霧で視界を奪われている私に
霧の中にいる私を照らしてくれたのだ。
「嫌じゃないです…!私の生きる理由は成瀬さんだから」
「じゃあ、Aちゃんは俺の生きる理由になってね」
「はいっ」
静かな公園に、どこか遠くから『赤鼻のトナカイ』の曲が聴こえた気がした。
___fin.
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