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頬に涙が伝うのが分かり俯くと、首に何かを巻かれた。
「まふらー…？」
涙を拭い首元に視線を向けると、成瀬お兄さんがつけていたマフラーが巻かれていた。
マフラーに残っているお兄さんの体温が暖かくて、冷えきった体にはちょうど良かった。
「そのマフラー、1年後のクリスマス・イヴにここで返してよ。んで、またお菓子食べようぜ。それが当面の生きる目標な！」
他所から見れば、馬鹿げた約束事だと思われるのだろうか。でも、そんな馬鹿げた約束事が、また会える理由にもなって嬉しく思った。
瞬きした目からまた涙が零れ落ちると、お兄さんが親指の腹で拭ってくれた。
「楽しみができれば、こんな世界でも少しは頑張れるだろ？」
俺も1年後まで頑張るわ。そう言いながらまた頭を撫でてくれるもんだから、また涙が溢れてとまらなかった。
生きる意味を与えられた。霧で何も見えない視界に、お兄さんが小さな光を灯してくれた。
決して、霧が晴れた訳では無い。でも、今はその小さな灯火に向かって生きていこうと思った。
ちょっと変わり者の成瀬お兄さんは、もしかしたらルドルフのお友達なのかもしれない。
そんなありもしない事を考えながら、お兄さんと途中まで一緒に帰った。
＊
受験も無事終わり春を迎えて私は高校生となり、あっという間に私が生まれて16回目の冬が来た。
中学の頃はセーラー服だったが、高校に入ってからはブレザー服になり、冬になると去年と同じようにマフラーを巻き付けた。
もちろん、成瀬お兄さんから預かっているマフラーだ。これがあるだけで、とても安心出来る。
それを巻き付けながら、いつもの帰り道を歩いて行く。いつも通る大通りは去年と同じように綺麗に飾り付けされていて、自然と口角が上がってしまう。
「クリスマス・イヴだ…」
口に出すとさらに実感させられた。もう少しだ、もう少しでお兄さんに会えるのだ。
あと1時間が待ち遠しい、早く夜になればいいのに、なんて思いながら、キラキラと光る街中を駆け抜けた。
「ついた…はぁ、はぁ、疲れた…」
早く公園に行きたくて、あの長い距離を走ってしまった。膝に手を置いて肩を上げ下げしながら、肺に酸素を取り込む。
12月の凍てついた空気が肺に突き刺さるように痛く、少し噎せてしまう。
「ほんとに来た…」
この1年間ずっと聞きたかった声がベンチの方から聞こえ顔を上げると
「久しぶり、Aちゃん」
ずっと、会いたかった人がいた。
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