迷霧のクリスマス・イヴ【nqrse】/トーストぱん ページ30
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『赤鼻のトナカイ』をご存知だろうか?
そう、小学生の頃に誰しも一度は耳にしたことがあるであろうクリスマスには欠かせない名曲だ。童話としても有名ではないだろうか?
生まれつき真っ赤な鼻をしていたトナカイ__ルドルフは、その鼻のせいでみんなから馬鹿にされ悲しい日々を送るが、あるクリスマス・イヴの夜にサンタからこう言われるのだ。
「君はみんなとは違う。でも、だからすごいんだ。君のピカピカの赤鼻はみんなとは違うけれど、暗い夜道も霧の中も照らすことができる。だから役に立つんだよ!」
その年からルドルフを先頭にした計9頭のトナカイ達がサンタのソリを引き、世界中に夢を運ぶのだ。
とても素敵なお話だ。願わくば私も、ルドルフにこの先行く道を照らしてもらいたい。
そんな事を思いながら、イルミネーションでキラキラと光り輝く街中を歩いていく。
もう外は暗いというのに大通りは大勢の人で賑わい、至る所からクリスマスの曲が流れている。街中お祭りムードだ。
そんな明るい世界から遠ざける様に、どんどんイルミネーションが少なくなる方へ足を進めた。
「つーいた」
40分も歩いて着いた場所。そこは、なんのイルミネーションもなければ人気もなく、静かで廃れた公園だ。
錆び付いたベンチに腰をかけ、スマホにある時計アプリを開いた。
長針が59を指しており、秒針はチクタクと0へ近づいていく。
「5…4…3…2…1…」
"
そう言うと同時に、20時になる。まあ、20時になっても何も起こらないのだが。
今日の日付に目を向ければ、12月24日と表示されていた。そう、今日はクリスマス・イヴだ。
「1年前と、なんも変わってないな…」
この先どうすればいいのかさっぱり分からず、嫌なことから逃げるように自分の中に閉じこもり、生きる意味すら分からずにまた1年を過ごしてしまった。
まるで、霧の中にいるような気分だ。
視界を霧で奪われ、前も後ろも右も左も分からない。霧を晴らす
だから、他者に導かれることを願ってしまうのだ。
よっこらせ、と年寄り臭いことを言ってベンチから腰を上げ、不揃いのスカートについたゴミを払い落とす。
すると、公園の入口から足音が聞こえた。
「中学生…?こんな時間に何してんの?風邪引くよ」
特別低い訳でもなく高い訳でもない、聞いていて心地のいい声が耳に届いた。
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