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珍しいね、こんなに早いなんて。
問いには、そう答えた。彼がいつも帰ってくる時間なんて、知らないんだけど。
「いつもと、同じだよ」
Aこそ、この時間に起きてるの珍しいねと。すこし嬉しそうに言うのは、なんでなんだろう。
知らない香水が残ってた服は、なんだったの? ほかのひとが、できたんじゃないの?
そうだと思ったから、こうやって、出ていこうとしたのに。人生で最悪のイブだって、笑うつもりだったのに。
「あ、あした、夕方には迎えにくるから、準備して待ってて」
なんでそんな、まだこの関係が続くみたいに言うの。わたしはもう、やめられるつもりでいるのに。
「デートすっごい久しぶりやし、なんかいまから緊張するんやけど」
とか。なんでそんな、なんでって。ほかのひとがいるなら、もっと冷たくしてくれればいいのに。
決めたあとに、こんなに優しくされたら、またすがりついてしまう。
「ずーっとさみしい思いさせてごめんね、明日、たくさん楽しませてあげるから、許してね」
なんて、抱きしめられたら、絆されてしまう。
わたしがしようとしてたこと、全部知ってるみたいに、優しくしないでほしいのに。
好きな香りが、わたしを包んで、絡んで、離れない。
わたしは、弱いのに。すぐ、逃げたがるのに。
「今日は、一緒に寝よ」
涙が、ニットに染み込んだ。
迷霧のクリスマス・イヴ【nqrse】/トーストぱん→←***
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