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初めて喧嘩をしたのは、付き合ってから初めてのクリスマスイヴだった。
僕の仕事が軌道に乗り出して、きみに構ってあげられる時間が少なくなってしまって。
…今ならどう考えても、きみに向き合ってあげなかった僕が一番悪いんだけど。
涙を流しながらきみが放ったひとことは、予想以上に僕の胸を深く穿った。
「真冬は、全然分かってない。音楽が好きなあなたを好きなのもほんとだけど、わたしは相川真冬っていう人と、いたいのに。…っ、真冬は、もうずっと、まふまふじゃない…」
それは、そうだ。僕は相川真冬で、まふまふで。それが当然だと思ってた。
けれど彼女にとっては違ったのか。
頭を殴られたようなその言葉の衝撃は、計り知れなかった。
「ごめん。…今日はちょっと、帰って」
整理しきれなくなって、きみを追い出すような言葉を使ってしまった。
僕が気づいた時にはもう遅くて、きみは傷ついたような、深く悲しんでいるような、そんな目をしていた。
.*・゚ .゚・*.
僕が編集を終えてリビングに行くと、猫たちと戯れるきみがいた。
その空間はもう癒しでしかなくて。
「あの時の真冬はもうどう考えてもほんっとうに最悪だった!復讐本気で考えてたもん!」
あれからあの話のことになるとカラカラと楽しそうに笑うきみ。
けれどあの時、きみがどれだけ苦しかったのか。
それを考えると笑えなくて、手元の酎ハイに目を落とした。
本当は普段お酒はあまり飲まないけれど、きみがいるし、クリスマスイブだし。
少しならいいかな、と思ってプルタブを開けると、机に伏せてたはずのきみに缶を横から奪われた。
ちょっと、っていう隙も置かせずにそのまま一気飲みすると、テーブルにガンっと缶を置いて。
へにゃりと笑ったきみの目には、少しの寂しさが浮かんでいた。
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