tie the knot【まふまふ】/ななは ページ24
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___彼女が望んでやまないであろうその言葉を、僕はずっと言えずにいる。
聖なる夜、僕と彼女はデートの予定だった。
けれどそれは僕の仕事の都合で叶わなくて。…また、彼女に我慢をさせてしまっている。
申し訳なくて何度も謝ると、“いいよ、わかってる”って優しく微笑むから。
僕はまた、その優しさに甘えてしまった。
付き合い始めてから3度目のクリスマス。
あれを意識しないほど、僕も若くない。
けれど僕の仕事はどうしたって不安定で、きみと一緒になるには少し心許ない。
…って、ずっとそう思ってた。
カタカタとキーボードを鳴らし続ける僕がきみの来ない数日間で荒らした部屋を、きみが片付けていく。
「もう、またこんな不摂生ばっかして。風邪引いてももう面倒みてあげないからね?」
「…ほんと?」
口では厳しいことを言っても結局僕を甘やかしてくれてしまうきみ。それが分かっているから意地悪をしたくなってしまった。
手を止めて彼女を見ると、僕の返答が意外だったのかピシッとその動きを止めていて。
けれど僕が見つめていることに気がついたのか、不自然に動き出した。
そういうところが本当に、可愛くて仕方がない。
初めて出会った雪の日、きみは寒さなんかに負けないくらいの笑顔で。
しあわせにしたいって突発的に思った、それは嘘じゃない。
付き合おうって言った、あの日だって冬だった。
遅いよって泣き笑いをしたきみが愛おしくて堪らなくて、掻き抱くようにして唇を重ねたのだって、昨日のことのように憶えている。
「そろそろ、だよな」
ぼそっと呟いたひとこと。
きっときみには、届いてなどいない。
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