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初めは無謀だと思われていた。
塾の先生の非常に困った、どう説得させようか頭を巡らすような笑み。
今日みたいに、クリスマスイブもクリスマスも。
他にもある沢山の祝日も全部、勉強に費やして。
やっと、B判定まで持って行けた。
自分でも何でなのかわからなかった。
袖擦り合うも多生の縁、だけどそこまで深い言葉を交わした訳じゃない。袖を擦り合わせた、だけで終わったそんな小さな小さな関係。
だけど、これは私が。勝手に。
終わらせたくなかったわけじゃない。
ただ、覚えていたかった。
彼の声を彼の手を。私をあのとき壊れそうになったとき、彼の全てで支えてくれたことを。
眼下の景色。
涙を拭いた。この星空は、滲んでいない方がずっとずっと綺麗。
――――――もう一生、忘れられやしない。
何て言ったらいいんだろうか。
好きな訳じゃない関わりがあった訳じゃないなのに胸に迫るこの感覚。この、想い。
空はゆっくりと移動していた。
通り抜けたいと願った裏路地の壁はとっくに視界から消えていて、...きっともうすぐ、別れの時間。
そらる先輩を、見た。
これは奇跡だ。クリスマスだから許された、ほんの一瞬の物語だ。
...ならばきっと、もう、見ちゃいけないのだ。
嘘で夢で幻で。それが現実と重なることは、もう、なくて。
僅かに残る想いを断ち切るように、目を瞑った。
きっと彼もわかっている。彼もそうしている。
星に願いを。聖夜に祈りを。
彼の幸せを。彼の、ことを。
そしてこの嘘を夢を幻を。クリスマスの魔法を。
私が本当に大人になっても、忘れぬようにと。
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