検索窓
今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:30,125 hit

*** ページ19

「ねぇ腰抜かしてどうすんの。...ほら、」

 地上を歩くよりも数段滑らかに足を運び、私の肩を抱き上げたその距離はとてもとても近い。空中で浮いてたのに見れば見るほど人間っぽいし。美形だし。
 声と同じように上品な青色の髪の毛だって、ふわふわしてて触りたくなる。............じゃなくて、

「ちょ、」

 立たせてもらった礼も言わずにバックステップを踏んだ。彼の体温はとても高いとは言えなかったのに、離れた瞬間に冬の冷たさが妙に肌に響く。

「誰ですか......てか、何の用ですか」

 警戒心MAXで問うと、彼は「え。...俺って何なんだろ」なんて気の抜ける言葉を落とす。本人からしたら呟いただけなのだろうが、やかましくはないのによく通るその声は、私に伝達し警戒心を更に跳ね上げさせるには十分だった。
 何なんだろって何なんだよ...。


「あーー、じゃあいいや。クリスマスだし、サンタで」


 適当かよ。

 不信感も不審感も増すばかりだ。最早カンストした警戒を存分に目線に乗っける私を意に介さないように、彼は私に近づいて躊躇なく右手を握った。「えっちょ、」動揺で途切れた声は完全に無視。

「ここ、抜けたいんだろ」

 そう断言されて、――――――硬くなっていた肩の力が不意に抜けた。

 抜けたい。...何、から?

 別に苦痛じゃない。疲れるけどしんどくはない。忙しいけれど滅入りはしない。死にたいとかも、思わない。



 ただ、――――――ちょっと、疲れすぎたかも。

 やりたいことをやりたいようにやれない日々が増えた。忙しさは増していく中で感情の変化は希薄になっていった。
 頑張りすぎた?そんなことはないけど。そんなこと言えるほど、頑張ってないけど。

 いいかな、今日くらい。
 我慢とか無理とか、そういう限界とかじゃなくても。
 世界で一番、頑張ってるわけじゃなくても。


 やりたいなって思ったこと、やっていいかな。

 抵抗する力が抜けた。ひんやりとした、だけどどこかじんわりとした彼の手を、少しだけ強く握る。








 浮いた。

***→←【そらる】ワンナイト・プラネタリウム/nana



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (40 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
47人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , クリスマス
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:作者一同 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年12月25日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。