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作りたてのスープを飲んで、おいしい、と笑うセンラに安心する。
テーブルの上には洋食メニューばかりが乗っていて、それが綺麗で少し嬉しかった。
「なぁ、俺らホンマにいつまでゴッコ続けるんやろな」
「………そうですね」
「このごっこ遊びも疲れ切ってしまうんやけど」
「……え、」
ずきり、と胸が痛む音がした。
椅子の下にある床がガラガラと音を立てて崩れ落ち、私はその底のない穴に深く落ちて行くかのような錯覚に陥る。
今、なんて?
「Aは?疲れた、って思わへんの?」
「わ、たしは、そんなこと思ったりしません」
「なんや、珍しく動揺してるやん」
「……だって、その、センラさんがこれがやりやすいから、と作った理想のカップル像でしょう?」
「そうやけど、伝わらんかなぁ…間違った伝わり方しとるしなぁ…」
ガシガシ、と何故だか頬を赤く染めて頭を掻く彼の思っていることが分からない。
だって、そういうことじゃないか。
このカップルごっこに飽きた、つまりは辞めたい、と言うこと。
でも、何でいきなり今になって言うの。
今日は楽しみにしていたクリスマスだというのに。
何故こんなことになってしまうのだ。まだクリスマスの朝で、今日が始まったばかりなのに。
「なぁ、俺が敬語やないの、気付かんの?あとな、マフィアの上層部とは綺麗に関係断ち切った。断ち切るのなんて案外簡単やったで。俺らの素顔も本名も知らへんねやもん」
「……どういうことで、───」
ハッと息を呑む。
私達がこのカップルごっこをやめる時は彼は決まって敬語になっていたのに。
ごっこ遊び、と口にする時は必ず敬語で話していたのに。
でも、なんで?
「きっと、このままでも彼女なんてモンも出来んやろうし、嫁も出来ひんし、ましてや好きな人なんてのも出来ひんやろうなぁ」
「え、っと。どう言う、」
「はぁ?ここまで言うてるのに伝わらんの?」
─────A、結婚してください。
勿論、ごっこじゃなくて、本当の夫婦として、な。
と。
そんなの、決まってるじゃないか。
「もちろん、…お願い、しますっ、!」
「ありがとう。本当はずっとずっとAのこと大好きやったから嬉しいわぁ」
「私も、大好き、!」
それは、どんなカップルよりも美しい物だった。
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