奈落の虫 ページ32
｢......うん？｣
樹に動きが見えたような気がしたが、どうやら勘違いだったらしい。小鳥遊家の屋敷は冬木の離れにあるため、遠くにある空想樹に少しの違和感を感じるのも無理はないのだろう。
｢早く作戦を建てなければ...彼らが生きられるように、最後まで小鳥遊家の当主として生きていけるように...｣
それはともかく、今は自身の心配だ。以前なら彼らの命さえも簡単に駒として扱えたのに、今では命を第一に考えてしまっている。
他人の心配はしていない。あくまで有効活用をするために、なるべく長生きしてほしいだけだ。心配もしてない、好いてもいない。だから知らない、彼らのことなど知らない。
｢(今日で四日目だ...もう少しで書き終わる...シオン、君の安全も...保証するから...)｣
シオン｢入っていい？｣
｢......食事か？今日も不要だ。明日には作戦も書き終わりそうだから、それまでは珈琲のみで足りる。｣
シオン｢ううん、違うよ。Aちゃんの一番の親友として、ちょっとマッサージしてあげようと思っただけ。｣
｢マッサージ...か。夜、君に頼むよ。就寝時間になったら、また改めて来てくれるだろうか。それまでは誰も近付かないよう伝えてくれ。｣
シオン｢オッケー！ではでは、私はこれにて！｣
どの作戦書もクソみたいなものだ。結局複数人の犠牲が必要になりそうなもの。空想樹なんてものの正体も不明なせいで、様々な可能性に備えて、様々な作戦を立案しなくてはいけなかった。おかげで肩は凝るし、当主としての責にも押し潰されそうになる。
｢...窓、開けっ放しだったな。閉めなけれ、ば。｣
だがそれもすぐに終わる。作戦立案書はもうじき完成し、私の勝利への糧となる。もう少し睡眠時間を削ってしまえば
アルジュナ｢ハロー♡行こうか、姫！｣
｢......寝ぼけたのか。よし、閉め、よ、｣
アルジュナ｢おっと。こんなにクマもできて...でも心配しないで。樹は君を歓迎してるし、俺たちも君を歓迎する！新たな世界を築きに行こうか！｣
｢...カウレス、言ってること...意味分かんないぞ...今は寝させてくれ...頼むから...｣
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作者名：琲世 | 作成日時：2022年1月25日 0時
