午前0時、アメリカーノに (ページ35)

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嘘をついて(JH) ページ35

「これでA、俺のこと忘れられないね。」

遡ること1時間前。

『…この間のこと。もしかしたらミンギュは芸能人と一般人が付き合うことなんてありえないって、私に迷惑かけると思ってくれてたのかな……なんて。』

驚いた。
どうしてそこまで優しいんだって。
なんかもう、Aはバカなんじゃないかと思えてくる。
それに、そんなわけないだろって真っ向から否定したかったけどミンギュならその可能性だって有り得なくないから尚更悔しかった。

「そんなふうに思うことができるなんて、Aは本当におめでたいね。そういうの嫌いじゃないよ。でもあいつはそんなこと思ってないよ。本当に、ただのバカなんだもん。…あーあ、俺好きな人の前で誰かの悪口言いたくないのになー。Aがそうさせるんだもんな。」

『え？えっと、あの…』

こんなこと言ったって、自分の株を下げるだけなのに。
Aがそうさせるみたいだ。結局気まずい空気を作り出して、本当に自分で自分が嫌になる。

「目、瞑ってて欲しい。」

何も疑わずに目を瞑る彼女に不安を抱いたものの、最後に彼女が見せた隙であり、チャンスだと思った。
一方的だけどAを諦める為。Aに嫌われる為。ごめん、A。

嘘をついて、Aにキスをした。

『どうしてっ……』

咄嗟に離れた時のあのなんとも言えない顔、震えている手、俺を拒んでいる立派な証拠だ。Aは俺のことなんて、これっぽっちも好きじゃなかったんだ。
良かった、これで完全にAから嫌われた。これでいい。

「せいぜい痛い目みないように頑張んな！バーーーカ！」

『ユン・ジョンハン！！』

演技は得意だから、その場しのぎでふざけ散らして颯爽とその場を後にした。

キスできたことが嬉しくて、選ばれなかったことが気に食わなくて、そんな最低な自分がいる。
腹の底から叫びたい気持ちを抑えて、その場にしゃがみこんで声にならない叫びを上げる。

自分は心底最低な男だ。

「ただいま。」

「あ、ヒョン……帰って来る時ミンギュと会いませんでしたか？」

「いいや、なんで？」

「あー……いや、何も言わず出かけたので。」

そう言ってミンハオはバツが悪そうにそそくさと部屋へ戻っていった。
なにか、怪しい。