離れて近づいて、そして離れる ページ19
百田先生=古文の先生 結構仕事しない。
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Aside
ここで話しかけなければ新先生とはこれからもっと話しづらくなってしまう。
だったら今のうちに声をかけよう。
どんな言葉で始めてもいい、｢お久しぶりです｣でも｢こんにちは｣でも。
言いたいことは沢山あるのに勇気だけ無いなんてみっともない。
行け、自分。
自分で自分の背中を押して、資料室の方を振り返る。
扉に鍵ががちゃりとかかる音。
共に新先生が現れる。
迷うことなく言葉が出た。
A｢新先生、ちょっと良いですか。｣
怒っているように聞こえたかもしれない。
無愛想に見えたかもしれない。
けれど、先生に声が届いただけで、一言発することが出来ただけで十分なのだ。
一瞬固まった先生は、ゆっくりと振り向いていつもの悲しそうな疲れた表情を見せた。
新｢ん、はい。｣
独り言のような返事をして、私の座る椅子の隣に来た。とは言っても椅子には座らず、机にこしかけ、すらと長い足を伸ばす。
新｢どうしたの。｣
A｢なんで先生は学年変わっちゃったんですか。｣
聞いても分かるはずのない質問。
だが、そこから会話を広げるためだから答えは求めていない。
先生は、ほうとため息をついて上を向いた。
新｢なんでだろうね。
そのままで良かったのに。｣
さすが新先生。
生徒も学年も好き嫌いをつけてはいけないと言うのにはっきりと｢前がいい｣といった。
A｢そのままが良かったんですか。
それは意外でした。いつも百田先生の仕事まで引き受けてて大変そうでしたので。｣
新｢そんなことは無いよ、ただいつの間にかやることが増えてるだけ。｣
A｢いや、それ絶対百田先生のでしょ笑｣
新｢かもね笑｣
他愛もない話が続く。
こうやって以前のように話したかった。
授業で会えなくなるのなら尚更もっと。
A｢先生、あの、忙しくない時はまた話相手になってくれませんか。
勉強の息抜きになるし、頑張れるので。｣
新｢喜んで。｣
先生は微かに微笑んだ。
時計を見て職員室に戻る準備を始める。
新｢またね。｣
遠くなる背中を見つめて思う。
いつになったらその背に向かって｢好き｣と言えるのだろう。
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作者名：甜 | 作成日時：2021年3月11日 12時
