【炎炎】第7の日常 弐

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縁板に腰を下ろし直しせば
次のスイカに手が伸びる。


「若」

「あ?」

「葵とは上手くいってるみたいですね」


手が止まる。
紺炉に、葵の事言ったか?
腹割って話せと言われたのが最後の記憶だ。

だから、怪訝な顔をすれば、
葵から聞いたと、返される。


「……あれの何処がそう見えるんだよ」

「まぁ、葵は手強いですからね」

「誰かのせいでな」


嫌味を溢せば、乾いた笑いを返される。
横目で紺炉を盗み見る。
そして、長年思っていた事を口にする。


「お前は……いいのかよ」


たった一人の肉親。

紺炉が、どれだけ葵を大切にしてきたか知ってる。
それは、宝物を扱う様にしていたのを覚えてる。


だから、俺みたいな拾われた子


半端な野良犬が、手塩に育てられたアイツに
思いを寄せることすら烏滸がましい。

それを親代わりになって育て上げた紺炉が
どう思っているのか


知るのが怖かった



「俺は……、若ならいいって思ってますぜ」

「…………」

「全く知らない奴よりかは、断然いい。
それに、俺が反対したところで引き下がる玉でもねぇだろ?」


視線を戻せば、父兄の顔がそこにある。
複雑そうに、それでいて何処か安心したような
穏やかに笑う紺炉。


「お前はどっちの味方なんだよ…」

「さぁ。どっちでしょうね…」


煮え切らない返事に、紺炉の複雑な心境が伺える。
それを察した紅丸が、真新しいスイカに食らいつく。


「でも後は、もう若の力量次第ですぜ」

「分かってる…」


頭では分かっているが、方法が分からない。
一番楽な方法は、紺炉と同じようにする事だ。
失敗もなければ、間違いもない。

しかし、紺炉の真似では2番手止まりだ。
だから、手本のいない今
どうすれば正解なのか分からない。

つい、足元に視線を落とす。


「諦めるか?」

「諦めて欲しいのか?」

「質問に質問を返すな、紅」

「……安心しろ。それなねぇ」


睨むように強く言い返せば
紺炉が困ったように肩を竦める。


「だったら、頑張るしかねぇな。かっこ悪くても。
意地汚くても、足掻くしかねぇ。紅は、紅らしくやれ」

「…あぁ」

「まぁ、お前のやる事には口出ししないが……」



“アイツを泣かしたら、海に沈める”



と、続いた。
不敵に笑う紺炉が、殺気を見せる。

聳(そび)える強大な壁。

しかし、紺炉(これ)を超えないと
土俵には上がれない。
アイツの勘定には入れなない。

何処までも似た者兄妹が、と笑った。

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