【炎炎】第7の日常 弐

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好きだと言葉にしてしまえば後には引けない。
動き出した、想いは止められない。
壊れた蛇口の様に感情が、出口を求め膨れ上がるばかりだ。


「好きだ」


また勝手に、口が想いを紡ぐ。
それを困ったように笑う葵。


『紅の気持ちには応えてあげられないよ』

「分かってる。さっきも聞いた」

『あの時、本当に殺すつもりだったんだよ』

「……」

『紅を見ていると辛いの、苦しいの。
殺したいほどに、憎いの』


その言葉に胸が痛む。
知りたいと願った胸の内は、嫌悪と殺意。
しかし、その感情を否定できない。
俺もガキの頃、葵に対して同じ事を思っていたから。


野良犬じゃないお前が憎かった。


どんな事も上手くこなすお前が、羨ましいかった。


誰にでも愛されるお前の様になりたかった。


何をしなくても、いい子だと、1度でいいから褒められたかった。


しかし、嫌う程に惹かれた。
知れば知るほど、相反する感情が大きくなっていった。

憎しみ余って、愛百倍。

だから、見失わぬように、目で追った。
逸れてしまぬように、つなぎ留めた

そして、今の俺ができた。


だから、葵の気持ちは無視できない。
俺には、受け止めるしかない。

しかし、浅葱が弧を描く。
柔らかい声が鼓膜を揺らす。


『でも…、紅と目が合うと安心するの。
嫌いって思う程に、ずっと見ていたいと思う』


告白されているみたいだと思う。
温い手がそっと頬を撫でる。


『それに、私には若に返してあげられるものがない。
全部、まがい物。だから、紅を満足させてあげられない』

「……別に、見返りが欲しい訳じゃねぇ」

『無欲なのか貪欲なのか。一体どっちなの?』

「うるせぇ。俺は俺だ」

『王様だな』

「紺炉と一緒な事言いうな」


兄妹だもんと、楽しそうに返す葵。


「お前がくれるもんなら、まがい物だっていい。
優しさの真似事でも、俺にとっては本物だ」

『………』

「だから、お前の全部をくれ」

『強欲だな。過ぎた欲は身を滅ぼすぞ?』

「俺は、そんな事じゃ死なねぇ。
それに、そうなった時はお前も一緒だ」

『一蓮托生って訳?』


肯定の言葉を繰りにすれば酷い奴だと、笑われた。
確かに、俺は酷い奴だ。

俺は、紺炉をダシにお前を縛る。


やっと掴み取ったんだ、今度は放したりはしない。
他の奴にくれてやるものか。

紅丸は、2度と暗い夜に迷はない様に
逸れてしまわない様にと強く手を握った。
小さな手は微かに

だが確かに武骨な手を握り返した。

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