【炎炎】第7の日常 弐

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鈍痛に呻き声を上げた葵。
額が切れ、血が顔の凹凸をなぞる。


「少しは落ち着け、馬鹿」


何かが切れる音と共に
目の前が一気に真っ暗になる。
必死に手繰り寄せて、繋ぎ留めててきた
何かがこの手から離れていく。

落ちていく

深い

深い


深海より先の冷たい淵に


轟々と煮えたぎる火口に。



もう、止められない。
全部壊してやれ、と名前のなかった感情が暴れ出す。
黒が葵を塗りつぶしていく。

血が目に入り、世界は赤く滲む。
赤は嫌いだ。挫折を知らないお前の様で腹が立つ。


『野良犬が、いい気になるなよ』


紅丸の胸倉を掴み、少し身を後ろにずらす。
そして、再び鈍い音がした。
やられたらやり返す。ここでの常識だ。
額の傷が更に深くなるが、そんな事どうでもいい。
眼前の紅い目を睨みつけた。


その目が嫌いだ


私のなりたかったものになった、お前が憎い。


私の欲しかったものを奪った、お前が許せない。


どうして、お前なんだ


どうして、私じゃないんだ


嫉妬、劣等感、憎悪が膨れあげる。
怒りが身体を熱くする。
しかし、殺意が頭の芯を冷やす。

そして、確実に殺す方法を導き出す。


掴んだ胸倉は放さない。
先程の自分の様に痛みに呻く紅丸に
そのまま技を発動させる。


『欠月(かけつき)』


葵の足元に欠けた月が浮かぶ。
光を放って、欠けていない部分が爆発する。
あまりの火力に、地面に大穴が開く。
しかし、相手は最強。
不意打ちと言えこんな爆破、へとも思っていない。


「てめぇ…‼」


怒りの眼差しを向けてくる紅丸。
互いに胸倉を掴み、睨み合う。
しかし、葵の方が身長は低い。
リーチの差で、ずっと腕を突っ張っていられない。

どうしても、力が逃げる瞬間がある。
若って言た事だがその隙を突かれた葵は
足払いをされ、地面に叩きつけられる。

痛みが背中に走るが、寝転がっても居られない。

拳が顔目掛けて降ってくる。
葵は身体を捻り躱すと、紅丸の首に脚をかけ
同じく地面に叩きつける。
そして、紅丸の腕を足で挟み込み
自分の手で肘を引き寄せる。
人体の構造上、肘は小指より外に曲げることはできない。


このまま折ってやる


引き寄せる力を強くし
本格的に折ろうとした時、空に閃光が走る。
上空を見れば、自分の炎が遅いかかて来る。
咄嗟に身を守る事を優先させたため、紅丸を逃がしてしまう。


「火月‼」

『居合抜刀術：三日月』


同タイミングで体を起こし斬撃を放つ。
衝撃波のあまり、大気が揺れた。

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