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町中で火柱が立ち、「焔人だ」と悲鳴が聞こえる。
本当に間が悪い。
葵は手を引っ込めると、壬生に避難指示を飛ばそうとした。
しかし、第8の話を聞いて止めた。

なら、自分の役目は…

ヒカに化けていた男から
紺炉に視線を向ける。


「葵。お前は焔人の方に行け」


大好きな声なのに
この時ばかりは、耳障りだと思う。


「今動けるのは、お前しかしないんだ」


強い目に見据えられる。
本当は嫌で嫌で仕方がない。
この状況下でお兄とヒナだけにするのは
あまりにも危険だ。
出来れば、この手が確実に届く範囲に
居させて欲しい。

しかし、お兄の頼みだ。

我儘は言っていられない。


葵は静かに瞼を閉じた。
黒い海が手招きをする。


悲しい程に、自分の役割を理解している


この状況下で、単独で動けるのは自分しかいない
鎮魂する片手間で
他の事を同時並行できるの術を持っているのも自分だけ

自分がお兄の立場なら、同じ判断をする


だから、この判断はだ正しい


お兄の判断はいつだって正しい


認めたくないだけで

あの日の判断もきっと…


葵は息を吐き出すと、瞼を開けた。


『分かった…。でも、後から文句は聞かないから』

「あぁ。今日はお前に好きにして良い」

『お兄とヒナをよく守るんだよ』


壬生を残して行く。



地面を駆ける足が重い。
屋根へと跳ねる身体が、鉛の様だ。
夜風に紛れて、炎の臭いがする。
屋根伝いに一番近い焔人まで走った。
すると、町に放っていた壬生が寄ってきて、並走する

高い所に上って初めて分かった。
猜疑心に恐怖が満ちる浅草。
恐らく、さっきの奴の仕業だろう。
住民を疑心暗鬼陥らせ
統率を乱し、更なる混乱を生みだす。

最小の細工で、最大の成果。

作戦としては常套手段だ。
まだ自分が指揮官だったら
評価点を与えているところだ。


しかし、ここは浅草

お兄の守りたいものだ


それを土足で踏み荒らす者は、誰であろうと許さない


『鼠が入った。1匹残らず始末しろ』


並走する壬生が黒い炎を纏っていく。
強暴に燃え盛る獣が、唸りを上げる。

屋根を蹴る。
闇夜の中、薄墨が光を放つ。
手に炎が集まり、熱が空気を焼く。
炎は形を成し、目前の焔人のコアを穿つ刀となる。
胸に刺さる刀を引き抜けば、灰と化す焔。
灰が夜風に攫われ舞い上げる。

ゆっくりと瞼を開ければ、浅葱が暗い色を孕む。


『狩りを始めよう…』


獣は飢えを満たす為に獲物を探し走る。
そして、深い、深い淵から修羅が目を覚ます。

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たんぱく質(プロフ) - なーちゃんさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるだけで、励みになります。できるだけ早くお届けできるよう頑張っていきます。 (2020年6月3日 21時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
なーちゃん - 紅丸大隊長、大好きなんです!書いてくれてありがとうございます!続き待ってます! (2020年6月2日 8時) (レス) id: 7840b2b58c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たんぱく質 | 作成日時:2020年5月24日 19時

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