検索窓
今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:269,849 hit

27 ページ28

甘味処の縁台に腰掛け、町行く人を眺める。
様々な人が行きかう中、ある兄妹に葵の目が留まる。
小さな妹の手を引いて歩く兄。

いつも手を引いて歩いてくれたな…


幼い日の思い出が蘇る。


あの頃は、本当に幸せだった。
純粋にただ、兄と過ごせる日々が楽しかった。
しかし、幸せは長くは続かった。
詰所で生活するようになってからは、毎日が苦痛だった。

何をするにも紅を優先する兄。

その度、心が擦り切れ、消耗していった。



ねぇ、お兄

私が男なら良かった?

私ができの悪い子だったら良かった?


そうしたら、お兄の1番でいられた?
そうしたら、私の事見ててくれた?


そうしたら、紅より私の事選んでくれた?


ねぇ、こっちを向いて

ねぇ、名前を呼んで




小さな器では、耐えきれないほどの激情。
それに苛まれ、苦しみ続けるだけなら

心はいらない。


兄に向ける憧憬も劣情も、周囲に向ける嫉妬も憎悪も


何もかも不要なもの



そう割り切って、何もかもを諦めたのは
10歳になるか、ならないかの頃だった。
その代わりに、葵は現実から逃げるように
剣に道に溺れていった。

刀を振って居る時だけ、何も考えずに済んだ。
暇があればひたすらに剣を振り続け
いつの間にか剣聖と謳われるまでになった。

逃げた先には、また別の地獄

つくづく哀れだと、自嘲を溢す。


湯呑に浮かぶ自分の顔を見下げる葵。
そこには、あの日の顔がいるので
あの時の決断を責めているようで嫌気がさす。


好きなら好きと、胸を張って生きれば何か変わったか?


そんな疑問が浮かんでは消える。



「想いが真実であっても、一方的なら片手落ち」


そんな事を言った者がいた気がする。
今思えば、的確に的を射ている。


愛とはままならないのだ。



報われないのなら

救われないのなら


せめて、想う人の幸せの為に剣を振ろうと


そこに自分が含まれていなくても

それで、自分が傷ついたとしても


あの人の大切なものは、私が守ろうと


そう誓ったのは2年前だ。
兄が浅草を大切に思うから
この浅草のすべてを愛する。

兄が紅の為に命を投げうつなら
この命を差し出そう。

葵は重たい腰を上げ、1人詰所へを向かった。
仲睦まじい兄妹の背中が雑踏の中に消えていく。
そして、ガランとした店内に、町の喧噪だけが響いていた。



――――――――――――――――――
30話くらいで第8出せたらいいなって考えてます

28→←26



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (144 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
217人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

たんぱく質(プロフ) - なーちゃんさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるだけで、励みになります。できるだけ早くお届けできるよう頑張っていきます。 (2020年6月3日 21時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
なーちゃん - 紅丸大隊長、大好きなんです!書いてくれてありがとうございます!続き待ってます! (2020年6月2日 8時) (レス) id: 7840b2b58c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:たんぱく質 | 作成日時:2020年5月24日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。