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地平線から、町を茜色一色に染める夕日。
葵は足早に町を行く。
その手には、町一番の饅頭が
人気のない路地に入った葵は歩みを止めた。


『いつまでコソコソしている』


放たれた言葉に暗がりの影ら揺らぐ。


「バレてたか」

『あれで、気づかない方が無理な話だろ?ジョーカーさん』

「嬉しいねぇ。俺の事、覚えてくれてるとは」


煙草の臭いが鼻を刺す。


最近、壬生が突然消滅することが続いた。
初めは、炎の出力を誤ったのだと思っていた。
しかし、決まった数が消えていることに気が付いた。
毎回、きっかり52体だけが消えるのだ。
トランプの総数は、52枚

本当に、小賢しいやつだ…

ふつふつと沸き上がる殺意を抑え込む。


「ニヤッ。相変わらず、嬢ちゃんの目はいい目だな…」


ジョーカーの手が伸びてくる。
が、突き立てられた劫火の槍がそれを阻む。
赤黒く燃え上がる槍は、全て焼き尽くさんと渦を巻く。
うねりを上げた炎の熱が、ジョーカー遠ざける。


『私に触れるな』


冷淡に放たれた言葉。
それに呼応するかの様に、急激に気温が下がる。
初夏の夕暮れと言えど、たかが知れている。
しかし、今は息を吐く度に白い息が出るほどで、周囲の建物はパキパキと音を立て凍り付いていく。


「今日はそういった気分じゃないんだが、お嬢ちゃんがその気なら…」


と、ニヤリと煙草を食む口が吊り上がる。

これは挑発。

あから様な挑発に乗るほど、馬鹿ではない葵。
炎を引っ込めれば、あからさまにがっかりして見せるジョーカー。


「なんだ。つれねぇな」

『ペテン師の相手をしても、何のうま味もないからな』


正直、これ以上関わり合いたくない…
よそ者は1人残らず排除するのが、葵のポリシーだ。
ただ、この男を相手取るとなると、かなり骨が折れる。
しかも、今いる場所は浅草のど真ん中だ。
間違えて本気を出そうものなら、浅草が消し飛ぶ。
流石にそれは避けたい。


『今回は見逃してやる』

「なんだ、今日は随分とあっさりだな」

『だが、次はない。精々、私に見つからないように祈れ』


葵はジョーカーに一瞥をくれてやると、目の前から消えた。
完全に葵の気配が消え、1人残されたジョーカーは煙草を吹かす。
しかし、煙が上がってくることはなかった。
煙草の先に視線をやれば、いつの間にか火の付いていた箇所が綺麗に切り落とされている。


「ハッ。やっぱあの嬢ちゃん、面白いわ」


笑う炎は、風に乗って消えていった。

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たんぱく質(プロフ) - なーちゃんさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるだけで、励みになります。できるだけ早くお届けできるよう頑張っていきます。 (2020年6月3日 21時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
なーちゃん - 紅丸大隊長、大好きなんです!書いてくれてありがとうございます!続き待ってます! (2020年6月2日 8時) (レス) id: 7840b2b58c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たんぱく質 | 作成日時:2020年5月24日 19時

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