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昼前に起きた火事が終わり、色んな奴に捕まり今午後5時を過ぎようとしていた。
葵に何処にも行くなといった手前、流石に待たせすぎた、と早足で戻ってきた。
しかし、あたりを見回しても姿が見つからない。

あいつ、まさか…

勝手に何処か行ったと思い、怒りが沸き上がる。
しかし、雑踏に紛れて聞き慣れた声が。
声のする方を向けは、茶屋の縁台で呑気に団子を頬張る葵が手を振る。


「葵、てめぇ……」

『おっと。言いつけは守ってるわよ』


確かに

葵は何処にも行ってはいない。
しかし、移動したことには変わりないので、問い詰めるが

「あのまま、炎天下に居たら熱中症で死ぬ」

と言われたので、ぐぅの音もない。
今度は短く笑った葵から仕返しが来る。


『食べる?』


いたずらっ子の笑みを浮かべる葵。
差し出される団子に、眉間に皺を寄せた。


「いらねぇ…」

『知ってる。若は甘いもの嫌いだもんね』


と、葵は最後の団子を口に放り込んで、勘定を済ませた。
時間が時間なので、2人は残りの見回りを止め、詰所に戻る。
日が傾き、夜を連れた空に、2つの靴音だけが響く。


「前から思ってたんだが…」

『何?』


と、少し前を行く葵が振り返る。
そして、歩みを止め、こちらに向き直る。


「…何でお前、紺炉や他の奴らみたいに“若”って呼ぶんだ。昔は……」


一瞬、葵の睫毛が揺れた気がする。
しばらく2人の間に沈黙が広がる。


『第7の頭だからよ』


穏やかに、それでいてはっきりと発せられた葵の声。
それは、紅丸の心に突き刺さり、何かを抉る。


『それに若は私の上官で、私は若の部下。
幼馴染だからって上官に対して愛称呼びなんて、失礼でしょ?』


いつもの笑ったような声が返ってくる。
しかし、逆光でよく見えない。

『だからよ』と、静かに続けた背中が先に行ってしまう。



いつからか、この距離が遠いと感じる


特に何かが変わったと言う訳では無い。
声をかければ葵は返事をするし、笑いかける。


ただ、ふとした瞬間に至極自然な動作で、ゆっくりと距離を放されることが増えた。


紅丸と葵、幼馴染の距離
昔は隣にあった、確かな距離が今は少しずつ遠のいていく
そう感じさせている大隊長と小隊長の距離の方が、まだ近いとさえ感じる


昔はどんな顔して、どんな風に話をしていたのか分からない


昔は言わなくても分かった葵の感情が、今は読めない



「ただ、俺は……ガキの頃のよう……」



零れ落ちた幼い願望は、黄昏に消えていった。

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たんぱく質(プロフ) - なーちゃんさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるだけで、励みになります。できるだけ早くお届けできるよう頑張っていきます。 (2020年6月3日 21時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
なーちゃん - 紅丸大隊長、大好きなんです!書いてくれてありがとうございます!続き待ってます! (2020年6月2日 8時) (レス) id: 7840b2b58c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たんぱく質 | 作成日時:2020年5月24日 19時

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