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「「雨だ」」
空を見上げて呟いたヒカヒナの言葉に、曇り空で統一された空を見つめて表情をしかめる紅丸。
「これ、本格的に降ってくるなぁ?」
「雷鳴るかなぁ?」
無邪気に問いかける2人に、紺炉は言葉短く頷く。
西の空から、分厚くて黒い大雲と共に湿った風がやってくる。
「葵の奴、大丈夫なのか?」
「傘持って行ってねぇんじゃねぇのか?」
そんな会話が耳に入ってくる。
「若。悪いが、ちょっと葵の奴を迎えに行ってくれねぇか?」
「あぁ?なんで、俺が」
「なら、夕餉の準備してくれるのか」
顔を顰めれば、楽しそうに笑う紺炉。
紅丸はため息を吐いて、重たい腰を持ち上げる。
紺炉から傘を受け取りながら、辺りを見渡す。
若?と紺炉が首を傾げれば、少しだけ言いにくそうに、紅丸は続きを述べた。
「いや、傘って…コレ一本だけか?」
「ぁ、そうなんです。古い傘はいくつか、この間処分してしまいやして」
「…そうか」
微妙な表情になった紅丸は、再度紺炉を見つめると、お前の傘、貸せと、太々しく願い出る。
その殊勝な態度に、それでもニッコリと微笑み言い切る紺炉。
「すいやせん、若。俺の傘、飯屋に忘れて来ちまって」
「あー、じゃあヒカゲかヒナタの…」
「ヒカヒナのじゃ小さくて入らないですよ。その傘で葵と一緒に帰ってくればいいじゃないですか。昔みたいに」
「はぁ?誰がそんな事するか」と、噛みつこうとする紅丸。
しかし、反論も異論も許さぬような絶対的な温和な笑みの前に、散る。
「はぁ…。分かったよ」
「じゃぁ、葵をよろしくお願いしやす」
半ば強引に背中を押され、詰所を後にする。
――――――――――――――――――――
紺炉は手を振って若を送り出した。
その服の隅っこを、ちょいちょいと下に引く感覚がして目線をそちらへ落とす。
すると、ヒカゲとヒナタが不思議そうにこちらを見ていた。
「何で、若に傘渡さなかったんだ?」
「あと、10本くらいあるのに」
純真無垢な眼差しに、紺炉は微笑みかけると腰あたりにある2つの頭を撫でる。
「偶には、花を持たせてやらねぇとな」
「何の花だ?」
「秘密だ」
「「ふーん」」
紺炉はにっこりと微笑むと、それ以上は何も言わずに台所に消えていった。
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たんぱく質(プロフ) - なーちゃんさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるだけで、励みになります。できるだけ早くお届けできるよう頑張っていきます。 (2020年6月3日 21時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
なーちゃん - 紅丸大隊長、大好きなんです!書いてくれてありがとうございます!続き待ってます! (2020年6月2日 8時) (レス) id: 7840b2b58c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たんぱく質 | 作成日時:2020年5月24日 19時