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洗剤と井草の匂いが鼻を掠める。
そこには、大量の法被を畳む相模屋兄妹。
昼下がりな事もあり、欠伸をかみ殺す妹。


「最近、よく欠伸してるな」

『最近、夢見が悪くてあまり寝れてない…。でも、仕事には支障はないから、心配しないで』


心配するなって言われてもな…


「夕餉まで時間もあるから、ひと眠りしろ」

『いやだ。そうするとお兄の仕事が増える』

「俺の心配より、自分の心配をしろ」

『本当に平気だから。しばらく寝れなくても問題ない。それに、寝たくない…』


強情な妹にため息を溢す兄
こういった場合、妹の習性を利用するのが一番だ
頭の方に手を伸ばすと、猫のようにすり寄ってくる葵。
丸い頭を撫でば無防備に受け入れのるで、そのまま膝までもっていく。


「いいから、寝とけ」

『でも…』

「俺がいいって言ってるんだ。今は素直に甘やかされてろ」


何度か髪を撫でてやると、船を漕ぎ出す葵。
最後まで抵抗していたが、最終的には瞼が落ち、規則正しい寝息が耳に届く。
指通りの良い、薄墨の髪を梳く。

最後にこうしてやったのはいつだったか。
膝に収まる位小さな頃だったか、それとも、軍へ行くと決意したあの日か
寝顔に視線を移すと薄っすらとできた隈に気づき、指で撫でる。

この小さな体にどれ程の荷を背負わせてしまっているのだろうか


葵には幸せになってほしいんだけなんだがな…


「不甲斐ない兄ちゃんですまねぇな…」


葵の額に自分の額を当て、祈るのように、謝るように溢す。
襖の開く音がする。


「おい、紺炉……何やってんだ?」

「若。おかえりなさいやせ」

首だけで振り返る。
畳を踏みしめ、こちらにやってくる若。
そして、肩越しに膝の葵を覗く。


「葵、寝てんのか?」

「へい。最近夢見が悪くらしくて、仮眠を」

「そうか…」


安堵の表情を見せる若。
それがいつかの景色と重なり、笑いを溢す。


「何が可笑しい」

「いや、昔もこんな事あったなって」

「いつの話してんだ」

「確かあれは…」

『ん”…』


薄っすら瞼を開ける葵
ここは何処だと泳ぐ浅葱色が、再び眠りに落ちていった。


「…………だな」

「何か言いやした?」

「いや。なんでもねぇ」


そう言って早々に立ち去る背中を見送った。

まだガキだな、紅は…



綺麗だな



確かにあの口はそう動いた。
肩を竦め、もう一度葵の髪を撫でる


「なぁ、知ってるか葵? 若は……、紅はな、お前のこと…………」


聞き手のいない言葉は、夏風に攫われる。

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たんぱく質(プロフ) - なーちゃんさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるだけで、励みになります。できるだけ早くお届けできるよう頑張っていきます。 (2020年6月3日 21時) (レス) id: aad2ad7f17 (このIDを非表示/違反報告)
なーちゃん - 紅丸大隊長、大好きなんです!書いてくれてありがとうございます!続き待ってます! (2020年6月2日 8時) (レス) id: 7840b2b58c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たんぱく質 | 作成日時:2020年5月24日 19時

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