第167話 ページ23
村の少しはずれに行くと、少し高い丘があった
その先は岩肌が広がっていて、怪我をするからと大人たちには行くのを止められていた
それでも目を盗んでよくそこに遊びに行っていた
眺めがよかったから、風が気持ちよかったから
理由は色々あったと思う
でも、一番の理由はとある花だった
小さいけれど、白い花弁を目一杯広げて咲く姿が好きだった
風に乗って香る涼しげな香りが好きだった
何年か前に、村の男がこの花を摘んでみんなの前で恋人にプロポーズをしているところを見た
女性は涙を流して喜び、何度も頷いていた
周りも祝福し、数日後にはあの花と同じ白い服を纏った女性が男と一緒に式を挙げた
あの花は幸せの象徴なんだ、と幼いながらに理解した
村を出てからは、あの花を目にすることは無くなったけれど
すっかり頭から抜け落ちていた幸せな記憶が、あの日突然呼び起こされた
柔らかさに包まれて、あの香りを思い出した
光を受けて輝く瞳に、あの白を思い出した
名は体を表す、とは正にこのことなのだろうと思い知った
次に彼女に会えるのはいつだろうか
次にあの香りを感じれるのはいつだろうか
次にあの白に映れるのはいつだろうか
早く、早く...早く彼女に...
「クラピカ?どうしたの?」
「...いや、何でもない」
「?...
早く行きましょう
ボスが待ってるわ」
「ああ、わかった」
早く彼女に...
「...会いたい...」
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作者名:SHINKAI | 作成日時:2022年9月9日 19時