第158話 ページ14
クロロside
『...』
飛行船は二機とも飛び立った
なのに俺の目の前にはAがいる
「なんだ?俺と来るのか?」
そんなことあるはずないのだろう
Aはじっと俺を見つめる
「人の姿にならないのか?」
『...』
何も言わない
いや、迷っている
何を言えばいいのか
そんな気がした
俺も何を言えばいいのか考え、頭の中に出てきた言葉をとりあえず口に出してみる
「15年前だ」
『...』
「旅団発足前だったと思う
1人でフラフラ街を散歩してた
日が暮れ始めて、もう帰ろうと思って来た道を戻ったんだ
なのに、気づいたら森にいた」
Aはただ静かに俺の話を聞き続ける
「ゴミばかりの場所から突然
いや、気づいたらだ
気づいた時にはもう森にいた
いつからそこにいたのかもわからなかった
だが自然と不安も恐怖もなかったよ
暗かったはずの空が明るくなっていて、青々とした木々が生い茂って木漏れ日を受けて輝いていた
不思議な場所だった
今でもあの感覚をよく覚えている
しばらく森を歩いたな
動物達が物珍しそうに俺を見ていたが、敵意などは感じられなかったから俺も気にせず歩いていた」
自分でも珍しく饒舌だと思う
こんなに喋り続けるのは随分久しぶりだ
「しばらく歩いて、湖に出た
そこには多くの動物達が集い、様々な花が咲き誇っていた
...俺はその中にいた1匹の獣に目を奪われた
花と動物達に囲まれ伏せる美しい獣に」
『...』
「わかるだろ?
それが、お前だよA...」
獣の瞳が僅かに細められた気がした
「俺に気づいたお前はゆっくりと起き上がり俺の方に歩いてきた
動けなかった
殺気を向けられているわけでもないのに
お前は俺の周りをぐるぐる回った
そして動けない俺の手に擦り寄った
澄んだ瞳が俺を見上げて歩き出した
俺が来た方とは逆の道だ
ついてこいって言われてる気がしたからついていった
そこでやっと体が動いたよ
揺れる青藍に目を奪われていたら一本の道に出た
木々が避けるように生えた道で、その先に進めと言わんばかりの視線に黙って従った
最後に一度振り返って、その姿を目に焼き付けた
真っ直ぐ道を進むと、気づいたらまたゴミの山に出ていた
また、俺が知らないうちに
振り返ってももちろん森なんてなかった
夢でも見ている気分だったな」
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作者名:SHINKAI | 作成日時:2022年9月9日 19時