エンドロールはいらない【桃】

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ガチャン、と大きな音が鳴ったのは
その数秒後


彼が肩にかけそびれた方の鞄の取っ手が
隣の机の端っこに引っかかって
口の開いていたそこから中身が派手に落ちた。


そこでやっと我に返った私は
慌てて駆け寄って、それを拾うのを手伝う


中身までぶちまけられたペンケース
ページが開いたまま床に散らばった教材


それらに手を伸ばそうとして、動きが止まる


ボロボロの単語帳
書き込みだらけのテキスト


間違えた問題だけにつけられた星印


…そしてそこが丸になるまで
何周も何周もした形跡



誰が見たってわかる


その桁違いの努力の量に
…息が、止まりそうになった。





桃「…ほんとごめん、」


「…すごいね」




零れ落ちた言葉は

自分だって受験生の身で、
あまりにも他人事のような気がした。




桃「…え？」


「京本くん、努力家なんだね」




高校3年生の秋

本人次第でどうにでもなってしまう未来を前に
誰だってナーバスになる時期だ。

そんな時に
自分との差を見せつけられたようで、苦しくて。


…それでも、彼のその努力の跡は
素直に「すごい」と思ったから。


その言葉に驚いたように彼が顔を上げて
濁りのない美しい瞳が、すぐ近くで私を捉えた。


その言葉をきっかけに

堰を切ったように彼が
また両目から静かに涙をこぼす。




桃「…っ、」


「え、…ごめん！変なこと言った？…よね！？」





…手を伸ばそうとして、止めた。



私を見つめたまま
唇を食いしばるようにして首を振った彼の


茶色がかった瞳が
奥が透けて見えそうなほどに澄んでいて


そこから溢れ出した感情の結晶は
気易く触れられないくらいに、綺麗だったから。




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