・�� ページ4
ああ、もう駄目だ。
どこぞの諦め。
そう思い、男の手先を見つめた。
金に対するありえないほどの執着のなさ。
まるでそれに価値がないと言っているように。
ワンコインが今にも落とされるという時、
それは不自然に弾かれ、パチンコ台の床にカラカラと転がった。
グニャリと視界が揺れに揺れ、モップに支えられ、壁に手を当てる。
ハッと顔を上げれば、先程の男も不自然な客の行動も消え、相変わらず耳が痛いほどの宣伝が聞こえてきた。
それにさえ安堵してしまう私に、そうとう疲れていたんだなと苦笑した。
私は気を失っていたのだろうか、それとも寝ていたのか。
どちらにしろ、こんなところでという反応は避けざるをえないのだが。
気分も完全に回復したわけではなく、どこか冷や汗のジットリしたものを背中に感じる。
サッサと掃除を終わらせてシャワー浴びて、寝よう。
謎の恐怖からの逃走とともに気合をいれてモップをもち上げれば、サッと視界に紫色が入った。
「何やってんすか、せーんぱい」
ガシャン。
頭に花瓶が落ちてきたような感覚に陥る。
それは花が可哀想だ。
一瞬、夢なのか幻覚なのか妄想なのか知らないが、覚えているあの男かと気が気でなかった。
まぁ、見えたのは私を先輩というショッピという男だ。本来彼が先輩である。
パチンコ屋では珍しい正社員という立ち位置に居て、優秀という噂がたっている。
バイト服ではなく、キチンとした正装に包まれた彼はイケメンという部類に入るだろう。
ネクタイを緩め、スーツを雑に開けていることから休憩時間なのかと察する。
眠そうに口を開けた彼は猫に見える。
普段の彼はここまでダラダラとしていないように見えるのだが。
そう思いつつ、この男のせいで何人かの女性が罠にハマっていることを見たことがある。
それらの女性がそういえば今日も来ていたなと思い出し、哀れんでおいた。
これは例外だ。パチンコ屋の店員全てがクズではない。
「少し疲れてただけなので、お気になさらず」
「…知ってますか？気にしないでと言われると、気にしたくなるんが人間っちゅうものらしいです」
早く仕事に戻りたいとモップを動かし始めると、パシリとモップごと手を押さえられる。
なんだその他人行儀な言動は。
私自身気が動転しているのか、言葉に敏感になっているらしい。
そんなの私らしくない。
カラコンでもつけているのかと、強い紫が私を視界に留めた。
「先輩、もう黄昏時です。閉めますよ、店」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 109人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
