育ってきた ページ18
濱家side
結局、俺は昨日のAからの心遣いを糧にして、何とも向き合おうともせず、誰もおらへん家で酒を飲んでいた。酩酊するまで飲み、涙を流すだけやった。
コップが空になり、また焼酎を注いだ。
立て続けに三杯を飲んだ。
机の上には、Aの電話番号の書かれたメモ帳があった。一回ご飯でも行ってこれば？あの時の言葉が、頭に甦った。
こんなことなら、Aと飯なんて行くんやなかった。そうすれば、嫁がこんな事にはならなかったかもしれない。
頭はいつも回る場所を、ぐるぐると回った。
分解しても洗っても、また組み立てても、無くしたものを取り返せるわけではないのだ。
ﾋﾟｰﾝﾎﾟｰﾝ…
全てをかき消すように、部屋中にチャイムが鳴り響いた。後ろから磁石で惹き付けられるような感覚を感じながら、ふらふらと、磁力に反するように玄関へ向かい、扉を開けた。
『うわ、濱家くんお酒臭い。朝からどれだけ飲んだの。』
｢…いや、そこまで飲んでは……。｣
『嘘ついてもバレバレ。お家、上がらせて頂くね。』
黒いパンプスを脱いで、Aは真っ直ぐリビングへと向かった。その手に握られていたスーパーのビニール袋を、ダイニングキッチンのテーブルに置いた。
『あーあー、やっぱり。何本も焼酎飲み散らかして……。』
独り言のように呟いて、床に転がる瓶を集めるAの後ろ姿を、俺は眺めていた。
何をやってるんやろう、と思った。結局、何だ。わざと安酒を買って、酩酊して、自分の哀しさに酔っぱらって、俺は何をやってるんだと思った。
―――何故この世には愛があるのだろう。
きっと目の前で瓶を束ねているAの心にも、愛が生まれ、愛が育ってきた。いや、育っていたはずや。
それは、俺も嫁も、同じだろう。
｢なぁ。｣
『なに？』
｢飯、作るか。｣
『そうだね。そろそろ作ろうか。』
二人してキッチンに立ち、飯を作った。
パチパチ
ジュージュー
ザクザク
すべての音が重なって、オーケストラのように音を奏でた。それが可笑しくて、口元を上げた。
それから、
焼酎を家で飲むことはなくなった。
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あいみ(プロフ) - なんだか切なくなってしまって最後ほんとに涙が止まりませんでした。この小説を作ってくれてありがとうございました！！！！（ ; ; ） (2020年5月22日 14時) (
レス) id: 00cce8756d (このIDを非表示/違反報告)
犖伶 - 「…好きになってくれて、ありがとうな。」からの「今、しあわせか。」は本当に泣かせに来てますよね…！濱家さん大好きなので、本当に最後泣いてしまいました……。素敵な作品をありがとうございました！ (2020年5月15日 3時) (レス) id: 20313cc4bd (このIDを非表示/違反報告)
あこ - すごく素敵な作品でした！ぜひ新しい濱家さんの長編小説を作って欲しいです！ (2018年12月7日 22時) (レス) id: c55e602afa (このIDを非表示/違反報告)
ユカリ - えりさん» 濱家さんはもう大好きに尽きます。ツッコミしてる姿も格好いいですし。この作品にお付き合い頂き、ありがとうございました。 (2018年3月24日 1時) (レス) id: 8263d84421 (このIDを非表示/違反報告)
ユカリ - せーらさん» コメントありがとうございます。他の作品も、よろしくお願いします！ (2018年3月24日 1時) (レス) id: 8263d84421 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ユカリ | 作成日時：2018年2月5日 17時
