第二十四話 飛んで火に入る夏の虫 ページ25
サンダルで足が露出されて足の甲がムズムズと痒かった。きっと蚊に刺されたのか、はたまた伸びに伸びている雑草が当たってくすぐったいだけか。
てつやとAの向かった方に少しだけ歩くと、2人がベンチに腰掛けている姿が見えた。それを影からそっと見つめる。打ち上げ花火の音に二人の会話がかき消されてしまわないように俺は耳をすました。
て｢あの、さぁ…｣
『うん』
て｢俺…ホントに浮気なんてっ、して…なくて…｣
『…うん』
て｢まだ言い訳してるって思ってるかもしんねぇけど…ホントに浮気してないし、Aのこと、ずっと…好きだし…っ｣
『…』
て｢だからやっぱり、もう一回やり直して欲しい…。俺このままなのヤダし…。Aのことホントに好きで、結婚だってしたいし…。浮気なんて絶対しとらんから…｣
『でもてつや…っ、電話でみーちゃんって呼んでたし…。この前テレビで共演できたって喜んでたし…』
て｢電話でみーちゃん…？……え、あれ…幹人…｣
『…えっ？幹人？って…服部？』
て｢数年ぶりに電話かかってきたからビビったわマジで！てか高校卒業してから話してなかったし、久しぶりすぎて今度会う約束した｣
『えっ、服部幹人って確かあの…体育祭で一発ギャグやってスベリまくった…』
て｢そ！てかそれで俺が峯岸みなみと浮気してるって思ったの？てか俺峯岸みなみのことみーちゃんじゃなくてみなみちゃんって呼ぶし…｣
『えっ、あっ…。なんだ…そっか…』
て｢……勘違いしてごめんなさいは？｣
『…ごめんなさい』
て｢ん、許す｣
『でもホントに浮気したと思ったんだもん…』
て｢ずっと好きだったんだし浮気なんてするはずないやん｣
『でも…、う"ぅ…っ』
て｢あー、もう｣
てつやはAの背中に腕を回す。Aは小さくなって肩を揺らして泣いていた。俺はこの場から動くことが出来ない。指一本。1ミリも動かすことが出来ない。
『てつや好きぃ…』
て｢ん、俺も俺も｣
『大好きぃ、大好きっ…』
て｢俺も大好き｣
なんだこれ。
俺はため息をついた。
結局のところ、これで良かった訳ではあるが、どうにも納得がいかないのがもどかしい。自分の思い通りにいかなかったからなのか、てつやがこれ以上俺より幸せになっていく事実がいけ好かないのか。
それでも顔は歪んで、瞬きの回数が多くなる。
目頭がじわっと熱くなる。
涙のレンズ越しに見たしだれ花火は、視界が霞むほどに強く輝いて見えた。
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作者名：べりー | 作成日時：2022年5月10日 19時
