第八話 ページ9
一日の仕事が終わり、家に帰って玄関のドアを軽く引くと、案の定すんなりとドアが開いた。やっぱり先に来てたのか。そりゃそうだよな、一応合鍵渡してるし。廊下をひたひたと歩いて突き当たりにあるリビングに顔を覗かせると、テレビを付けて軽く酒を煽る彼女の姿があった。
「…あ、光くんお帰り」
「ただいま」
「さっきはむはむにおやつあげといたよ」
「ありがとう」
「そういやどうしたの？急に呼び出して」
「…」
「光くん？」
彼女は不思議そうに俺の顔を下から覗いた。酒を飲んでいるからか、頬がほんのりと紅く染まって見える。茶髪で少しくせっ毛のその髪を今まで何度撫でて来ただろう。ただ今は、正直そんなことどうでもよかった。
「抱かせて」
「え？ちょ…！」
「由紀ゴム持ってる？まぁいっか、無くても」
「ちょっと…！光くんってば…！ここじゃさすがに…」
「由紀…」
「あと私生理中だから…！」
その一言に、俺は無理やり彼女のデニムパンツを脱がそうとしていた手を止めた。彼女の荒い息遣いと、テレビから前に共演したことのある大物芸能人が大笑いする声だけが聴こえてきた。
なにしてんだろ、俺。
彼女はよろよろと重く地面に座り込む俺を心配そうな目で見た。そりゃそんな顔するよな。いきなり呼び出されて「抱かせて」なんて言われたら。
「光くん、そんなに食いついてきて…溜まってるの？」
「え…、あぁ…わかんね…。そうかもしんない…かな…」
「そっか…やっぱ生理の時は出来ないからさ…？また今度終わったら、ね？」
「うん…」
ソファに腰かける彼女の隣に座ると、頬に優しくキスをされた。その感触が頬にこびりついて離れない。抱きでもすれば、彼女…村崎さんのことを少しでも忘れられると思ったのに。たまたま出会うだなんて変な奇跡、起こんなくてもよかったのに。…いや、それともただの偶然か？
特に望んでもない奇跡を偶然と呼ぶなら、その偶然に甘んじてしまいそうになる自分が許せない。
…綺麗じゃない。
傷を舐め合うような恋愛なんて、ただ醜いだけだ。
「ごめん…、ちょっと疲れたから今日はもう帰ってほしい…」
「え…、帰ってってさっき来たばっかりなんだけど…」
「ごめん…」
「えっ、ちょっと！」
半ば無理やり彼女を家から追い出すと、余計に自分が汚い人間のように思えた。隠してもじわじわと滲み出てくる村上への嫉妬と、由紀への嫌悪感。
結構マジで、俺って最低だ。
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skmhlily0(プロフ) - 読み入ってしまいました。シリアスものが好きなのでとても面白かったですし、表現も素敵でした！最後どうなってしまったのか気になります、、！ (2021年4月21日 1時) (
レス) id: a667278346 (このIDを非表示/違反報告)
まお - とても面白かったです！野田さんでまたお話書いてほしいです、今度はラブコメとかで（笑） (2021年4月21日 0時) (レス) id: 88e2cb16f6 (このIDを非表示/違反報告)
べりー(プロフ) - あやかさん» コメントありがとうございます。まだまだ拙い文章ですがこれからも精進して参りますのでよろしくお願い致します。 (2021年3月28日 20時) (レス) id: f9102047d4 (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - とても素敵な作品で感動しました。お二人の行動も言動も自然で読んでいて違和感なくスッと入ってきます。切なくて続きがどうなるのかドキドキしてたまりません。これからも更新楽しみにしております。お身体に気をつけて無理せず執筆なさってください。 (2021年3月26日 0時) (レス) id: 28c50f8619 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねむ | 作成日時：2021年3月2日 18時
