第三十話 ページ31
野田side
・
『静岡…。小学生の頃、家族旅行で一回だけ来たことあったな…』
｢俺も昔何回か来た覚えはあるけど、こんな近くで富士山見たのは初めてだわ｣
『私も』
富士川サービスエリアは大勢の人で賑わっていて、そこから見える景色にフラッシュをたくカメラマンばかりが集団を作っていた。
ベンチに腰かけて、彼女と富士山を眺める。
｢ここまで来たけどどうすんの｣
『んー…どうしよ…』
｢帰る？｣
『まだ帰んない』
｢どこまで行くつもり？｣
『どこまでも』
崇裕くんのことが忘れられる所まで
そう付け足した彼女の横顔は風になびく髪の毛に邪魔されてよく見れなかった。
富士川サービスエリアの文字が刻まれた石碑の穴から奥を覗いてみる。そこには青空をバックに佇む富士山と、彼女。
…他人から見れば何の変哲もない人生なのだろうが、
もし誰かがそれを笑うのなら、それがどうしたと言い返してやるんだ。
この旅の終わりの向こう側には、
きっと地獄や絶望や希望なんかでは無く、
この高鳴りが一瞬のから騒ぎだとしても。
『…光くん』
これからはただ君と共に生きて、
君と共に死ねたらこれ以上の幸せはないのだろう。
『何笑ってんの？』
(笑)
｢そういう事かって感じ｣
『え？何が？』
｢俺は結局俺だよ。今も昔も｣
『はぁ？』
『何言ってるか分かんねーよ。バーカ』
遠くから若い女の子二人に指をさされるのが見える。俺は彼女の手を引いてその場から逃げるように歩いた。なんでこっちを見てくる？なんで指をさしてくる？俺が野田クリスタルだってバレたからか？頭に鳥のフンでも付いていたからか？俺が、俺が俺が俺が俺が俺が。
村上の彼女に手を出したからか？
｢うっ…、フゥ…フッ…、う…っフゥ…｣
『……光くん？』
最低だ 最低だ 最低だ
最低だ、
・
目を覚ますと、ジメッとした空気に包まれた感覚がして、傷んだ木の天井が目の前に現れた。どっかの旅館に泊まって…眠ってたのか…。
『…起きちゃったの？ダメだよ寝なきゃ…。熱出てるし無理しないで…』
｢眠ったら…夢から覚めそうで怖い｣
『…それ逆じゃない？…変なの』
彼女の小さな両手を引き寄せて、俺の首元にやる。伏し目がちに彼女は俺の方を見た。
『……何？』
｢もっと強く…｣
『…そんなことしたら死んじゃう』
｢強く…｣
『変な事言わないで…』
"一人になったら私、どうすればいいの？"
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skmhlily0(プロフ) - 読み入ってしまいました。シリアスものが好きなのでとても面白かったですし、表現も素敵でした！最後どうなってしまったのか気になります、、！ (2021年4月21日 1時) (
レス) id: a667278346 (このIDを非表示/違反報告)
まお - とても面白かったです！野田さんでまたお話書いてほしいです、今度はラブコメとかで（笑） (2021年4月21日 0時) (レス) id: 88e2cb16f6 (このIDを非表示/違反報告)
べりー(プロフ) - あやかさん» コメントありがとうございます。まだまだ拙い文章ですがこれからも精進して参りますのでよろしくお願い致します。 (2021年3月28日 20時) (レス) id: f9102047d4 (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - とても素敵な作品で感動しました。お二人の行動も言動も自然で読んでいて違和感なくスッと入ってきます。切なくて続きがどうなるのかドキドキしてたまりません。これからも更新楽しみにしております。お身体に気をつけて無理せず執筆なさってください。 (2021年3月26日 0時) (レス) id: 28c50f8619 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねむ | 作成日時：2021年3月2日 18時
