第十八話 ページ19
「うん、それで？」
『あ…だからと言ってどうということじゃ無いんだけど…なんていうか聞いて欲しくてさ…。ごめんね、こんなことで呼び出しちゃって…。光くんも忙しいはずなのに…』
だから何なんだよ。
俺が何かを心待ちにしてせっかく映画まで付き合って今ここにいるのに、聞いて欲しかっただけってなんだよ。そんなの自分から村上に言えばいいだろう？なんでわざわざ俺に言うんだよ。
頭はぐるぐると同じ場所を回った。
『うー…なんか酔っぱらっちゃったかな…？実は会う前にもちょっと飲んだんだよね…。いや、酔っぱらってないかな…？いや酔ってるなー…』
このペースに流されるな。
『…そういえば光くんってさぁ、小中高とお笑い芸人になりたいって言ってたけど一部の人から白い目で見られてたとこあったから、正直言うと芸人で上手くやっていけなくて実家暮らしでフリーターでもやってるのかと思ったよ』
"俺も村崎さんはコミュ障で就活が上手くいかなくて下水の底みたいな人生送ってると思ってたよ"
『あはは。…私、そんな子だったかな？』
"あはは"とか。
笑いごとじゃないだろう？
…ふざけるな、村崎A。
俺の手がテーブルの上の彼女の手に伸びて、ゆっくりと握り込んだ。刹那に訪れる一瞬の沈黙に、君はその手をじっと見つめた。
「…手、繋いでもいい？」
『……もう繋いでるけど』
「…暫くこのままでいていい？」
『…なんで？』
「……なんでだろう」
なんでだろう。
『だめだよ…』
"こういうの……だめだよ…"
その手を掴んだまま席を立つと、ちょうどテーブルに料理を運んできた店員が声をかけてきた。俺はその分の会計を済ませてそそくさと店を出る。手には彼女の細い指の感覚があった。
すっかり夜になった街は飲食店やビルの灯りで煌々としていて、仕事帰りのサラリーマンが暖簾を潜る姿が多く見えた。
『ねぇ、光くん…。手離してよ、どこ行くの？』
「…どこに行くと思う？」
『どこ…？』
「…どこだろうな」
鈍く光る君の瞳が俺の影に隠れて真っ暗になる。
どこからかプァーッと車のクラクションが鳴り響く音が聞こえてきた。
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skmhlily0(プロフ) - 読み入ってしまいました。シリアスものが好きなのでとても面白かったですし、表現も素敵でした！最後どうなってしまったのか気になります、、！ (2021年4月21日 1時) (
レス) id: a667278346 (このIDを非表示/違反報告)
まお - とても面白かったです！野田さんでまたお話書いてほしいです、今度はラブコメとかで（笑） (2021年4月21日 0時) (レス) id: 88e2cb16f6 (このIDを非表示/違反報告)
べりー(プロフ) - あやかさん» コメントありがとうございます。まだまだ拙い文章ですがこれからも精進して参りますのでよろしくお願い致します。 (2021年3月28日 20時) (レス) id: f9102047d4 (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - とても素敵な作品で感動しました。お二人の行動も言動も自然で読んでいて違和感なくスッと入ってきます。切なくて続きがどうなるのかドキドキしてたまりません。これからも更新楽しみにしております。お身体に気をつけて無理せず執筆なさってください。 (2021年3月26日 0時) (レス) id: 28c50f8619 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねむ | 作成日時：2021年3月2日 18時
