恋と笑いは紙一重５【芸人短編集】

ヒーローごっこ 【博多華丸・大吉 大吉】 ページ29

まきさんのリクエストです。








・


窓を閉めた。


ドアを閉めた。


カーテンを閉めた。


連絡網を絶った。


話さなくなった。




誰も、信じなくなった。





あの日、
今日のような土砂降りの雨の日。




私の兄が交通事故で亡くなった。




どんな時でも優しくて、
気弱な私を助けてくれて。


たった一人のヒーローだった。





お兄ちゃん、
私一人じゃ寂しいよ。


お兄ちゃん、
いつもみたいに助けに来てよ。





それでもヒーローは、
私の元には助けに来なかった。




マネージャーの仕事もほっぽり出して、22歳のいい大人がお兄ちゃんを亡くしただけで鬱状態で閉じこもっちゃうなんて、笑えるよね。





世間はきっと笑ってた。


私もそんな自分を笑ってた。





でも、それでも。
貴方だけは笑わなかった。









大｢僕がお兄さんの代わりにヒーローになる。それでも、いい？｣






眉を下げて、ずぶ濡れで捨てられていた仔犬を見るような目をして、貴方は私にそう言った。




聞く耳を持たなかった私は、
その日から社会を拒絶し始めた。





それでも毎日家に来てくれて、
ドアの外から私に話しかけてくる。




私なんて返事すらしないのに


それでも私を1人にしないようにと、
貴方はずっと喋ってた。







ずっとずっと、
ヒーローになろうとしてくれた。









あれからもう、どれほど経つのか。





そろそろ、
ヒーローごっこは辞めにしようと思います。






悲劇のヒロインなんて、
あまりにもかっこ悪いじゃない。








あくまでも私は、
私の物語の中の"主人公"。



だから、ヒーローもヒロインもいらない。






大きな世界で小さく生きる
たった一人の主人公。

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