67(side J) ページ17
「田中さん、助けて・・・」
Aちゃんをきょもの家に送り込んで、戻った車内。
お気に入りの洋楽をかけながら煙草に火を付ける。
何かあったらすぐに行くから、って言ったもののAちゃんからのSOSがやってくることはなくて。
案外うまくいってんのかな、なんて思っていた矢先、そんな不穏な電話がAちゃんから舞い込んだ。
慌てて、車を飛び出して、きょもの家へ向かう。
やたらゆっくり来るエレベーターに痺れを切らして、非常階段を駆け上る。
普段、こんなに全力で動くことなんかないから心臓が今にもはち切れそう。
肝心なときに使い物になんなきゃ意味ねぇから筋トレはやっぱ必要だわ、なんてもつれそうになる足を動かしながら過去の自分の恨む。
ようやく辿り着いたきょもの部屋の前。
インターホンを押せば、すぐにドアが開いて難しい顔したきょもが出迎える。
「・・・っ、A、ちゃんは、?!」
「樹、走って来たのもしかして」
「い、いいから、っ、Aちゃん、」
上がった息。
整えながらも話すけれど、なかなか思うようには行かなくて。
そんな俺を見てきょもが「樹がそんなになるなんて珍しいね」なんて驚いた表情を浮かべる。
いや、女の子に助けてだなんて言われたら、そりゃこうなるだろ、って言いたいけれど、上手く言葉にならなくてただただ息だけが喉を通り過ぎていく。
通されたリビング。
その先にAちゃんの姿はあった。
よく見れば目尻に泣いた形跡がある。
「・・・なんか、あった?」
息を整えて。
彼女の涙には敢えて触れずに、できる限り優しい声色で。
ゆっくりAちゃんに声を掛けると、彼女はまだ少し潤んだ瞳をこちらに向けて「田中さん、助けて」と縋るようにもう一度言った。
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まゆみん(プロフ) - 更新待ってます (7月4日 12時) (レス) @page38 id: 491ff515c8 (このIDを非表示/違反報告)
miho(プロフ) - 1番いいとこで終わってる、、 (2023年3月10日 23時) (レス) @page38 id: 6ec56600ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もえぎ | 作成日時:2022年3月29日 16時