8(side T) ページ8
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信じられないならとことん調べればいい、と目の前に差し出された彼女のスマホ。
それを受け取り、中を確認する。
他人のスマホの中身を見るという行為に少し躊躇したが、受け取ってしまった手前、それを悟られないようにとスイスイと指先を滑らせていく。
結果から言えば、画面に表示されたアプリやら、あとは画像フォルダもざっと確認してみたけれどそれらしきものは何も見つからなかった。
彼女が否定していた内容は間違っていないという事実だけが裏付けされただけだった。
「ん」と彼女にスマホを突き返す。
渡す際に触れたAさんの指先はやけに冷たく感じた。
「何かありました？」
「なんも」
「でしょうね。これで清廉潔白なのが証明されたってこといいですか？」
彼女の顔が少しだけ勝ち誇ったような表情に見えて、胸の奥のほうがズキン痛む。
ここで素直に謝ればいいものをなんとなく引き下がれなくなっていた俺は、意地を張るようにAさんのほうへ視線を向けた。
「それはどうだか」
「ちょっと？！？」
慌てたような顔をするAにまたひとつチクリ、と心が痛む。
ほんとなんで素直に謝れないんだろ。
自分の非を認めるのが怖い子どもみたいな振る舞いをしてしまっている自分が醜くて苦しい。
「今日はありがとうございました」とため息交じりに頭を下げ、部屋を後にした彼女の背中はなんとも言えない悲壮感を纏っていた。
ドアが閉まり切る直前、Aさんと目が合った。
謝るなら今だ、と口を開けるけれど、でもそこから続く言葉は出てこない。
声にならない空気だけがひゅっと喉を通り過ぎていく。
それを押しつぶすようにパタン、とドアは閉まっていく。
あぁもうダメだ、俺。
体に圧し掛かってくる罪悪感と素直になれない自分のダメさ加減が頭を重くした。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年12月26日 17時
