44(side T) ページ44
「お礼の言葉だけじゃ足りないくらいなんだけど。どうしよう?どうしたらいい??」
本当に嬉しくて。でも言葉だけじゃその喜びと感謝を伝えられはしないから。
気づいたらAのことを抱きしめていた。
その行為には一切の下心も何もなくて。
ただ純粋に嬉しさを表した結果だっただけだ。
あのときもAが慌てて俺の胸を押し返した意味が分からなかったくらいだ。
男友達と「やったじゃん!」って抱き合うようなそんな感覚だった。少なくとも俺の中では。
でも、世間はやはりそんな優しくはなかった。
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「この写真に写っているのはたしかに僕です」
「相手の女性は?」
「親しい友達です。そういう関係じゃない、信じてください」
「"友達の一人""何もない"それを世間が信じると思う?」
向けられた社長の視線は鋭くて冷たい。
頭の片隅にAの言葉が過ぎる。
『やましい気持ちがあるかないかなんて他人からは関係ないし、目に映るものが真実になるんだって』
何も知らない状態でこの写真を見たら、多くの人は俺とAがただの友達ではないと考えるだろう。
いくら俺がそれを否定したところで、そんなのはただ自分を保身するためだけの言い訳にしか聞こえない。
Aの言ったことが今まさにこの瞬間起こっている。
「来週発売の週刊誌に載る予定だ。事務所としてはお前たちが大事な時期だと考えている。この記事が出ることでプラスに働くことはない。本当に彼女とは友達で、何もない、ということであれば、こちらはそれで押し通す」
胃の底のほうがキリキリと痛む。
事実じゃないことも誰かの目に触れれば、それが真実だとかどうだとかは関係なく、さも真実かのように仕立て上げられていく。
俺がどう思ってるかなんてそんなものは、そこには一切存在しない。
この仕事をしている以上、そういうことは出てくる問題だし、それも仕事の一部だと思いながら、これまでも仕事をして来たつもりだ。
でも、今回ばかりはそれが息苦しくて仕方なかった。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年12月26日 17時