37(side T) ページ37
取材が一段落したところで、喉も乾いたしってコンビニに飲み物を買いに行こうと外に出ようとしたときだった。
廊下の隅っこのほうで、誰かが話をしている声が聞こえた。
いつもなら別にそんなの気にしないのだけど、今日ばかりはなぜか妙な勘というか、胸騒ぎというか、まぁなんか神のお告げ的な？そんなのが体に走ったわけ。
ちょっと様子を伺うか、とさりげなく声のするほうに近づいて行く。
近づくにつれどんどんと鮮明になっていく声。それが樹とAの声だと気づくのにそう時間はかからなかった。
あの2人の組み合わせってなかなか珍しいな、なんて呑気に思いながら、2人のほうへ近づいたときだった。
樹が所謂壁ドンってやつをAにしていた。
え、なに。この状況。
2人の今にも唇が触れてしまいそうなほどの距離が視界に入った瞬間、胸の奥のほうがギュッと苦しくなって。
それと同時に妙にモヤモヤとした感情が体の中を蠢いていく。
「ねぇ、なにしてんの、2人で」
もっと言い方は他にあっただろうし、別に2人が何してようと俺には関係ないと言われれば関係ないし。
聞く必要があったのかどうかすら定かではないけれど。
気づいたらそんな言葉が口をついて出ていた。
Aの視線がこちらに向く。
何かを訴えるようなその瞳にまた胸の奥が騒めく。
「別になんも？ただちょっとおしゃべりしてだだけ」
だからそんな怖い顔すんなよ、って樹がいつもの顔で笑う。
「ちょっとおしゃべりにしては距離近くない？」
「そう？」
そんな話をしている間も樹はAから離れようとしない。
それがなんだかすごく嫌で樹の肩をぐいっと掴んで、その隙にAの体を自分のほうに引き寄せる。
「なぁにきょもヤキモチ妬いてんの？」
「ヤキモチじゃない。ただ誰かに見られたらあらぬ噂とか立てられるかもしれないじゃん」
「そんなん気にし過ぎじゃない？」
「樹がよくてもAさんが嫌かもしれないでしょ」
ね？とAのほうへ視線を向けるとAは静かにこくん、と頷いた。
「はいはい、わかったわかった。Aさんじゃあまたね？」
「あ、はい」
樹はそう言うとひらり、と手を振ってすぐにその場を去って行った。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年12月26日 17時
