86:遭遇�� ページ36
「…京本、」
「誰？そいつ」
この声、怒ってる声だ。
私の背後にピッタリくっついて松村さんのほうを鋭く睨む京本になぜだか私の背筋が凍る。
「あ、同僚さんとご一緒だったんですね」
松村さんはそんな京本の視線をかわして、わざとらしくそう言うとゆっくりと笑った。
「すみません、ご挨拶が遅くなってしまって。僕は、松村と言います。Aさんとは仲良くさせていただいていて」
ね？って送られた視線に頷くと京本がふーん、って呟く。
「初めまして。Aの同期で京本と言います。その節はAが色々とご迷惑をおかけしたみたいで」
「いえ、そんな迷惑だなんて思っていませんので。こちらこそ、Aさんから色々とお話し伺ってますよ」
仲がよろしいんですよね、なんて松村さんがニッコリ微笑む。
いやいや、なんなのこの状況。
京本が言うような迷惑をかけた覚えもなけりゃ、松村さんに京本のことを話した覚えもないけど？！
気まずい。
この間に挟まれてるのすごい気まずい。
なんか、浮気現場ばれて修羅場になってるような気分。今なら浮気男と分かり合える気がする。
…別に浮気も何にもしてないし、そもそも浮気するようなやつは許せないけど。
「そうなんですね。ところで失礼ですが、Aとはどういったご関係で？」
そう言って京本はとびきりの営業スマイルを浮かべる。
その笑顔、目の奥が笑ってなくて怖いんですけど…
「それを京本さんにお教えする必要ありますか？」
「同期として、Aのことは色々と心配していて。こいつ男運すこぶる悪くて」
「ちょっと、京本？！」
サラッと酷いこと言うし！
そもそも男運別に悪くないし！
松村さんは、京本の言葉に顎に手を当てうーん、と考える仕草をする。
「まぁしいて言うなら色々とよくしていただいてますよ、とだけ」
笑顔でそう答えた松村さんに、京本もとびきりの笑顔で「そうですか」なんて答えるけど。
2人とも笑顔なのに、バチバチしてる空気が怖い。一刻も早くここから逃げたい。
「お楽しみのところ、お邪魔してすみませんでした」
Aさんまた連絡します、と松村さんは笑顔で手を振り、店の奥の方の席へと消えていく。
松村さんが立ち去って沈黙が流れる。
空気が重苦しい。
「…なに、あいつ」
「何って言われても」
「なーんかいけすかない」
松村さんが去ったほうを見ながら京本は眉間に皺を寄せた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
