76:そんなご冗談を ページ26
「え、はっ？、ちょっと待って、そんなご冗談を、」
あまりにも真剣な顔して京本が言うものだから危うく信じかけそうになったけど、これは絶対冗談だ。
だって、あの京本大我が？
私のことを？
好きって？
いやいや、そんな話あるわけがない。
「冗談言うタイミングじゃないでしょ」
Aバカなの？なんて京本は心の底から呆れた表情を浮かべるけど、それだって全然現実味がないというか。
「彼氏と別れたって言うから、じゃあ傷心気味のところにでもつけ込んで俺のものにしようって、どうやって攻めてくかなって考えてたら、急に松村？松田？とかなんとかいう知らない男のことが気になるとか言われちゃってさ。こっちはもうパニックよ」
あまりに腹が立ってそれでお前のことちょっと避けたんだ、なんて京本は言った。
なるほど。避けられてた理由はそういうことだったのか。
いや、なるほどでもないけど。まぁ合点はいったというか、理由が分かって腑に落ちたところはある。
「俺がどんだけお前に長い間片想いしてると思ってんの？そんな、ぽっと出のやつに横からとられて堪るかっての」
「いや、えっと、」
「言っとくけど、お前のこと好きになったの新人研修のときからだから。片想い歴めっちゃ長いんだからな？」
そう言って京本はどこか勝ち誇ったような顔ををこちらに向けるけど、別になんにも勝ってるわけじゃないし。
っていうかそもそも勝負すらしてないんだけど。
「はい、じゃあこの話はおしまい」
京本はパチン、と両手を合わせて鳴らすと「行くぞ」ってまた歩みを再開する。
いや、おしまいも何もなんにも解決してないし、むしろこっちにはモヤモヤしか残ってないんですけども。
どんどんと湧き上がる疑問とモヤモヤを打ち消すように一歩、一歩踏みしめ、京本を追いかけた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
