63:ワガママをふたつ ページ13
「樹?」
「なんだよ」
「あの、これ」
あの皺になった紙袋を樹の前に差し出すと、樹の目が大きく見開かれた。
そりゃそうか。
まさかこのタイミングで差し出されるなんて思ってもみないもんね。
「え、、まだ持ってたんだ」
お前のことだから、とっくの昔からに捨てたと思ってた、なんて樹は笑う。
樹は私のことなんてなんでもお見通しだ。
実際、樹の言う通り捨てたし。戻ってきたけど。
「捨てたの、樹の言う通り。でも、色々あって戻ってきた」
「なんだそれ」
意味わかんねぇって樹は笑う。
私ですら、なんで手元に戻ってきてしまったんだろうって不思議に思う。
でもその不思議な出来事のおかげで、松村さんに出会えたし、樹ともちゃんと向き合うことができた。
「プレゼントしたのを戻されんのってすげぇカッコ悪くね?」
樹は苦笑いをしながら、紙袋に手を伸ばす。
男の人にとったら屈辱以外の何者でもないかもしれない。
そう思ったら、今の私、結構酷なことしてる。
「なぁ」
「なに?」
「最後にさ、ワガママ聞いてくんねぇ?ふたつ」
「ふたつ?」
「そ、ふたつ」
「…欲張りだね」
「うっせぇよ」
2人で顔を見合わせて笑う。
さっきまでの重苦しい雰囲気は少しずつ溶けていく。
「まず1つ目」
「うん」
「このブレスレットつけてるとこ、もう1回見せてくんねぇ?」
「え、?」
戸惑う私に樹はいいからいいから、って紙袋を押し付ける。
紙袋を開け、ブレスレットを取り出すとそれをそっと手首につける。
「…これでいいの?」
樹の前でブレスレットを揺らす。
部屋の明かりに照らされて、キラキラと光るブレスレットはとても綺麗だった。
「ん、やっぱいいわ」
「…かわいいね」
「そりゃそうだろ。俺が選んだんだし」
見た瞬間、Aに似合うってそう思ったんだから、って樹は得意気な顔をする。
「でも、」
「分かってるよ。つけれねぇことくらい」
「ごめん…」
「だから、次2つ目」
樹はそう言うとブレスレットに触れた。
ブレスレット越しに触れる樹の熱に胸が苦しくなる。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時