61:いびつに描く ページ11
樹のゴツゴツした手が、私の手に重なる。
じんわりと伝わってくるその熱が苦しい。
「続きからなんて言わねぇよ。俺が積み重ねてきたのを全部崩したんだから。だから、また最初から。イチからやり直したい」
「…じゅ、り」
「俺には、Aしかいねぇんだよ、、俺の隣にはお前がいるのが当たり前なんだよ。なんかあったとき、思い浮かぶのはいっつもお前の顔で。ここ今度Aを連れてこようとか、そういえばAコレ好きだったよな、とか…そういうの全部、全部、一番に思うのはお前なんだよ、」
「私も、そう思ってたよ、」
樹の苦しそうに助けを求めるような表情に胸が苦しくなる。
私だってそう思ってた。
樹が私の生活の中に当たり前にいた。
それがずっと続くと思っていた。
でも。
でも、現実はそんな上手くはいかなかった。
「じゃあ、俺たち、」
「…ごめん、樹」
「なんでだよ、」
樹が続きからだなんて言わないから、最初からまた始めようって言ってくれて嬉しかった。
そう出来たらどんなにいいだろうとも思う。
「樹里とやり直して、また前みたいに笑い合えたらそれが幸せなのかもしれない。どうしようもない私のことを笑って受け入れてくれる人は樹しかいないと思う」
「でも、、でも、やり直しても、どこかで苦しくなると思う。私のために樹が黙ってくれていた事実がふとした瞬間に苦しくなって、、また何か隠されてたりするのかの、って思っちゃうかもしれない。それに、樹が私を1度傷つけたからって、傷つけないように気を遣って、時には無理をする、、そんな樹の姿を見たくない…」
私という存在で樹のことを縛り付けたくなかった。
仮にやり直したとしても、完全に以前の関係に元通りなんて、そんなの絶対に無理だろう。
そんなこと思わないって言っていても、心のどこかでその事実が瘡蓋みたいにずっと残って。
何かの拍子でそれが剥がれたとき、また互いが苦しむことになる。
それなら、もう、終わりにしたほうがいいと思った。
「…じゅ、り、、私、樹とは、やり直せない、」
ごめんなさい、本当に、と頭を下げる。
ここで泣いちゃいけないことは分かってる。
なのに、泣いてはいけないと思えば思うほど、視界は大きく歪んでいく。
ぽたり、と落ちた涙はスカートにいびつな円を描く。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
